子どもプール法

「血は争えない」「血を分けた」「血がつながった」こういう表現はいまや使われなくなった。その理由はこれらの前提が成立しなくなったからだ。その前提とは「親子が血縁関係」にあるということ。昨年の通常国会で新たな法案が通り今年の4月から適用されたのだ。その名も子どもプール法。このプールとはスイミングプールのことではない。ためておくという意味のプールだ。ちなみに先ほどの名称は俗称であり正式名称は「少子高齢化・児童虐待・性の多様化を背景とした実子制度の実質的撤廃とそれに係る各種制度・法案の改正に関わる法案」である。

 この法案が適用されたため例えばこういった場面がなくなった。


 ウンギャアァアー ンギャアァア

 生まれましたね。お母さんもよく頑張りました。

 あ、ありがとうございます。

 だっこしてみますか。

 はい。あすかぁ、お母さんですよ~。

 お父さんも呼んできましょうか。

 あ、はい、お願いします。いまからお父さんも来るからねえ~。


 だって自分が産んだ子どもが自分の子どもということではなくなったから。では産まれた子どもはどこへ行くのか。それはつまりプールされるのだ。産まれたあとは病院などの医療機関で育てられ、年齢が上がるにつれて教育機関に通いつつ保育施設などで育てられる。この子どもたちはの親は両親ではない。申請手続きを行った引き取り手だ。申請時には性別と年齢を指定することができる。この引き渡し業務を担当する親子庁も先の法案に基づき新設された。全国で受け付けている申請は親子庁で一元管理され、申請番号何番の人にはこの子どもを引き渡すという風に決められていく。

 この発想には賛否両論が叫ばれ(賛否否否否否否否否否両論くらいだと言われていたが)たもののもちろんちゃんとした理由があって、従来の親子観を覆すほどのメリットがあってこの新法案はつくられ国会をパスしたのだ。主なメリットは正式名称にも含まれていた三つ。

 まず少子高齢化対策。子どもを産みたくても産めない理由の多くは子育てにかかるお金が十分にないというものである。そのため出生数は鈍化。また堕胎も行われている現実がある。しかしこの制度下なら子どもを産んでも育てる必要はない。一方で子どもがほしくても恵まれない人というのもいる。そういった人たちは申請すれば子どもを迎え入れることができるというわけだ。もちろん誰でも申請をすれば子育てができるというわけではなく資産や収入など一定の条件がある。

 次に児童虐待の防止。望まぬ子どもというのはこの制度によってほぼ存在しなくなるため虐待の基本的な原因は影を広める。さらに虐待歴なるものが行政によって記録されるためそういった相手の再度申請に際しては引き渡し条件が厳しくなる。また虐待が確認された子どもに関しては引き渡し前の状態、つまりプールされた状態に戻り施設によって育てられるため虐待への対応も万全といえる。また、小さい子は言うことを聞かず育てるのが大変、苦手で虐待をしてしまうのではと感じている人は申請時に小四以上などと指定すればよい。

 最後に性の多様化への対応。これが一番メリットとして分かりやすいかもしれない。子どもを授かることのできない同性カップルも申請すれば子どもを授かることができるのである。また、かつての養子といった関係では周囲からの視線が憚られるという声もあったが今回の法改正でこの問題も解決された。こういった従来では子育てをすることができなかった人も子育てをするようになったため、プールされる子どもの数が多すぎて制度が瓦解するということは起きていない。

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