今日で片思いも終わり
高校でも部活に入らなかった私はホームルーム後はのんびりとカバンに勉強道具を片付け帰る。そのいつも通りをこなそうとしていると本田くんから話しかけられた。
「なあ井上、ちょっといい?」
好きな男子からこんな風に放課後声をかけられたらドキドキしたりあたふたしたりするのが相場なのだろうけど私はそんな初心じゃなかった。だってこのテンションどう見てもそういう雰囲気じゃない。
「告白ってさやっぱり直接の方がいいのかな。それともライン? 手紙はいまどき引かれるかな、どう思う?」
やっぱり。何回目だろうか。何回も経験があるというわけではないけど初めてではない。多分三回目くらいだろうか。というか私の片思いの回数が三回なのだから三回で合ってる。
「でも、直接って緊張するんだよなあ」
そうだけど一番思いは伝わるんじゃない? ずっと黙ってるのも変なので当たり障りのないことを言う。
「たしかにそうだよなあ。でもなあ、うまく言えっかな」
本田くんが本当に不安そうにしていてなんだかおもしろい。いや、面白いっていうかかわいいっていうか。
「本田くんなら大丈夫だよ」
だって本田くんは人前でちゃんと発表ができたり、班長とかになったりするタイプ。
「でも俺いっつもその子としゃべるとき緊張するんだよ。それなのに告白ってさ」
明るい本田くんらしからぬ『でも』の連続だけどそれだけ本気なのかもしれない。こっちも親切にアドバイスする。
「じゃあなんて言うかある程度決めとけばいいよ。そしたらアガっても大丈夫」
「あ、そっか、そうだよな。全然気づかなかったわ。さすが井上」
どこがどう流石なのかは分からないけどほめられたのは単純にうれしい。
「あれでしょ。手紙とかラインとかだったら予め文章考えるんだからそれと同じ感じでやればいいよ、多分」
「ほんとだな。うん。でも好きです、付き合ってください以外に何言うことある?」
「えっとどういうところが好きとか、好きになったきっかけとか? それはいっしょかな」
おいおい自分、首絞めにいってどうする。この調子だと本田くんこのまま私の前で台本完成させてしまいそうなのに。本田くんが相手の好きなところを列挙するのをじっと聞いておく羽目になるぞ。仕方ない帰るか。いいよねまあまあ相談乗ったし。話せる時間は一秒でも惜しいけど今日で私の片思いも終わりだし。
「じゃあ本田くん、私帰るね。うまくいくといいね」
「井上、ちょっと待って」
急に私の前の席に座ってこっちを向いていた本田くんが立ち上がる。
「だって直接が一番伝わるんだろ」
「井上、好きです。付き合ってください。えっと、好きなところってか好きな理由は―—」
「いや、好きなところが無いってことじゃなくて。やっぱいざとなると緊張してさ」
「井上? ごめん、いやだった?」
状況が飲み込めないまま座りっぱなしの私の顔を本田くんが覗き込んでくる。
どうやら今日で片思いは終わりらしい。
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