アキ君に伝える

 今日ついに伝えてきます


 よし、裏垢で宣言もした。じゃあキャンパスに行こう。だいぶ暖かくなってきたからカーディガンにする。水色の無地のスカートに白のブラウス。カーディガンは優しめのピンク。今日は全体的にふんわりした感じにしたいから白基調のリュックに教科書とかノートとかを入れる。大丈夫かな。がんばりすぎみたいに見えないかな? ちょっと心配だけど自分の好きな服装が一番だ。窓の鍵を閉めたことを確認して電気もちゃんと消して家を出る。


 今日は一限がフランス語の講義でそのあとがミクロ経済。ミクロは必修でアキ君も取ってるからそのあと構内のカフェでランチを食べようと約束した。話したいことがあるとも予め言っておいた。未読無視されないか心配だったけどそんなことはなかった。アキくんはそんな人じゃないと分かっていても少し怖かった。電車に揺られながらスマホを見ているとリプが来ていた。「がんばって!」「うまくいくことを願ってるよ」10分前くらいの投稿にもう反応してくれててうれしい。


 フランス語の先生はイケメンで声もいいんだけどそのおかげで内容が頭に入って来ない。授業内容も最近難しくなってきたし。分かんないものは分かんないやと割り切って心の中で先生に謝りながらアキ君になんて言うかもう一回シュミレーションする。言おうと思ってから一週間くらいたったかもしれない。どうやったら私の思いが伝わるかなと考えていたら考えがまとまらなくて、やり直しはできないって分かっているから悩んでしまって。アキ君がどう思うかとかも考え始めるともっと分かんなくなって。そのたびにベッドの中で眠れなくなったり、友達に相談したり、SNSに投稿したりした。


 フランス語も終わってミクロの講義室に移動する。一番奥の建物だから急がないと。あと数分というところで後ろの入口から入る。あっ、アキ君。あっちも気づいてくれたけど立ち話をする時間はない。それにあっちは友達と一緒だ。そんなときでもアキ君は小さく手を振ってくれる。うれしい。アキ君は優しい。恥ずかしくてうなずくしかできなかったけど。


 結局ミクロの時間もあんまり集中できなかった。ランチなに頼もうかな。今日の日替わりパスタは何だろう。シチューもおいしいんだよね。アキ君はあそこのハンバーグランチが好きだけど、今日もそれにするのかなあ。私は今日は午前で授業終わりだしアキ君は2限と4限って言ってたからゆっくりお話しする時間はある。


 ということでこの理論は今は使われなくなりましたね。じゃあチャイムも鳴ったしこれで今日は終わります。あ、終わった。ボールペンを筆箱に入れながらアキ君を目で追う。廊下で待っていてくれたので一緒にカフェまで歩く。木漏れ日がきれいなこの道、何回もアキ君と一緒に歩いたなあ。


 こちらお下げしますね。私は小さくうなずきながらマドラーでコーヒーをかき混ぜる。アキ君はブラックが冷めるのを待っている。そろそろ頃合いかな。


 アキ君、私たち別れよう。

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