部屋はきれいでハッピー
岡本かおりの家はきれいである。きれいすぎて遊びに来た大学の友達は生活感が無いとか気持ち悪いとか言う。別にそんなことを気にするかおりではないが、たしかに友達の家に遊びに行ったとき自分の家はきれいな部類に入るのかもしれないと思ったりした。ものを床に置いたりはしないし服は脱ぎっぱなしなんてこともない。もちろん洗濯したあとの洋服がたたまれずに積んであるなんてことも。本も本棚に入りきらなかった分が横向きに上に乗せてあったりはしない。ものには全て定位置が決まっておりそこにきちんと仕舞われている。
あ、でもあれかも。かおり、ものが少ないんじゃない? そもそも。大事なことに気づいたというように友達が言う。
ああ、その通りかも。かおりも頷く。流行の服を毎シーズン買うというタイプでもないし本も気に入ったものしか買わない。ティッシュとか文房具とか日用品もちゃんと管理しているからストックがあるのにまた買って来ちゃったなんてことも起きない。
それにさ。友達が畳みかける。部屋がかおりほどきれいではない言い訳を見つけたようだ。最近別れたでしょ、大樹くんと。あ、うん半年前ね。だからだよ、私の家なおとのものいっぱいあるもん。そう言われてみればそうかもしれない。大樹がいたときはダイくんのTシャツとかタオルとかテキストとか色んな私物が我が家に居候していた。でもそんなことすっかり忘れていた。ダイくんは私物を全部回収するタイプの男だったのだ。全部捨てといて、と別れるときに吐き捨てる男もいるらしいがダイくんはそうではなかった。そういう几帳面というか変に真面目なところが好きだったのだ。がさつでないというか。
あーでも最近なおとなんか違うんだよなあ。何が違うのと訊く前に愚痴がこぼれ出す。急にさサーフィンがしたいとか言って。え、サーフィン? そう、あの海の。だってさ海ないじゃんこの辺。わざわざレンタカー借りて男友達とサーフィンに行くって言うの。サーフィンが今アツいとかわけわかんないこと言ってさ。たしかにサーフィン楽しそうだけどね。サーフボードって言うんだっけ、アレ高いんじゃないの? そう、そこなの問題は。安くても数万は絶対するの。それをさ急に買ってきたの昨日、で私の家に持って来たんだよね。こーんなデカくてさ邪魔で仕方ないんだよね、ほんと。手をめいいっぱい広げて友達が熱弁する。
カタン
空のペットボトルの倒れる音。ごめんごめん。いいよいいよかおりは立ち上がってそれを拾い手に持ってカーペットに座りなおす。それ捨てないの? ゴミとかすぐ捨てるんじゃないの、だから部屋もきれいなんじゃないの? そう言いたげな顔である。あ、これ? かおりが答える。このペットボトルはね、ダイくんのなの。
え?
ダイくんが飲んでた天然水のペットボトルなの。これがあるとハッピーになれるの。
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