誰のせいかは知っている

 後ろから何かが追ってくる。だから前に進まないといけない。仕方なく前に進むが道は悪い。雨が降ったあと乾くまえに無理やり通ったがための凸凹。角の尖った砂利。足を取られる砂地。ときには坂道になったりもする。左右の高い塀が圧迫感を与えてくる場所だってある。脇道が現れるもそれは行き止まり。だから前に進むしかやはり選択肢は残されていない。しかし、もしかしたらこの道も不正解の道で行き止まりなのかもしれない。


 息苦しい。別に高所に来たわけでもないし、空気が澱んでいるわけでもない。いや、本当は分かっている。息苦しいのは首を絞められているからだ。後ろから。両手でギュッと自分の首が絞められている。力任せではないが確固たる意志を感じる。こちらの息の根を止めてやるという。後ろを振り向きたいものの強く掴まれているからそれはできない。自分の首を絞めているのが誰か知りたいが分からない。知ったところでどうにもならないと思うけど。


 世の中にはマイルールという言葉がある。この言葉かなり聞こえはいいが、ときに自身を縛り付ける呪縛となる。自分で決めただけだから自分で簡単にやめれば良いのにそれができない。自分で始めたがために引き返せない。これはダメ、こうした方がいい。誰に咎められるでもないのに自分で自分が許せない。理想の自分が幅を利かせ自分の前に居座る。夢は大きい方がいい、志は高く、そんな妄言を信じてつくり上げた自分を否定することができない。自分のつくった型に合わせて生きようとする。自らレールを敷いてそこを歩こうとする。


 追いかけてくる者の正体を確かめようと振り返ると、そこにいたのは毎朝鏡で見た顔だった。精気はなく充血した目。その下には不健康な色をした、くまも目立つ。どうにも目の合わないこの人間がどうやら自分らしい。


 頑張って下を向くとそこにあった手は萎びた自分の手だった。色の悪い指。荒れた皮膚。じっとその指を見つめるとなんだか首がひんやりした。自分の指には血が通っていないのだろうか。


 自分を苦しめているのは自分。自分が生きづらいのは自分のせい。そんなことは分かっていたけれど、理性では分かっていたけれど、心の奥底でどこか認めたくなくて考えないで。けれども、この答えは動かない事実である。こう認めてしまったら最早開き直るほかない。


 ああ、そうさ。生きづらいのは自分のせいなんだ。笑っちゃうよ。そう思うと、何だか道は開けてきた気がするし、心なしか息もしやすくなったように思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る