ほぼ毎日短編

前からだと後ろは見えない

　めんどくさいなあ。意外に稼げないしホストって。愛想ふりまいて話し合わせて酒飲んでも店の利益と給料ってものは別だからなあ。今日は金曜か、ってことは10万入るな。木曜の女いつもより少なかったからな、ぼろいハイツに住んでるくせにケチなんだから。あそこまでサービスしてやって3万とはなあ。今週は７人合わせて30万くらいか。そこに俺の分も入れて50万はいくか。にしても手術ってもんはカネが掛かるんだなあ。それに加えて施設に入るのにもカネが要るし。

　それに再婚して兄弟できたってのにすぐに父親は蒸発しやがって。結局支出ばっか増えるじゃねえか。ダメだなこんな言い方したらまた怒られる。

　かき氷のシロップは色と匂いが違うだけで味は同じ。そんなことを自慢げに語る人とは一緒にいられないなって最近思う。だって見かけが違うってそれだけで十分違うよ。たとえ中身が一緒でもさ。見かけだけでも着飾ろう、よく見せようっていう気持ち分かるでしょ。

　ケーキの上に乗ってるサンタさんだって砂糖だよ。ただの砂糖菓子。いざ食べてみるとちょっと気持ち悪くなっちゃうくらい甘くてさ。でも無いとさみしい。そういうものってあるでしょ。

　着ぐるみだってそう。中に入ってるのは人間。着ぐるみの中に入る仕事というものが存在していることも知ってるし、中は暑くて大変とか、だから小さな扇風機がついているとか知っている。知っているけどそれにはちょっと目をつむって信じてみたい、夢に幻想に惑わされたい。そういう気持ち理解してくれてもいいんじゃない？

　ていうかさ、だから私はきみと一緒にいるんだよ。毎週金曜日の28時。お酒を飲んで話し相手になって夢を売ってお金をもらう仕事を終えたきみは私の家に来る。今度は私に夢を売ってくれる番。くたくたになったきみは私を一瞬抱きしめて好きだと囁いて私のベッドで寝る。その幸せをかみしめながら私はメイクをしてバイトに出る。10万円を机の上に置いて。

けい兄、なんで帰って来ないの？　お家あるのに。

ほの、そんなことけい兄の前で言っちゃダメだぞ。けい兄もがんばってるんだから。

でもリュウくんもがんばってるよ。毎日ご飯つくってくれる。今日は何？

雑炊だよ。卵雑炊。

またあ？

ほの、卵は栄養いっぱいなんだよ。完全栄養食品っていうくらいだから。

かんぜんえいようしょくひん？

そう。完全ってのはぜんぶって意味。人間に必要な栄養が全部入ってるんだ。

全部？

んんと、本当に全部じゃあないかも。ほとんど、全部。

だよね。完璧なんて無理だもん。