インタビューに答えない工場作業員

 少し大きめの駅から車で15分程度のところに工場はある。テレビ局の車が敷地内の駐車場にやって来た。手持ちのカメラを持ったカメラマンや特徴的なマイクを担いだ音声さん、役の付いていそうな男性スタッフなどが降りたあとアナウンサーと思われるスーツ姿の女性が現れた。四人は大きくて灰色をした工場の入口まで歩く。すでに工場の事務所には今日の何時に取材に行くと話が通してあるから、受け付けに行く必要はなく従業員と同じ入口から工場内に入る。


 出迎えたのは工場長。黄色の帽子をかぶっているからすぐ区別がつくとの話だったが確かにそうだ。他の人は青色の帽子をかぶっている。


「今日はご足労頂きありがとうございます。月初に新設された作業現場とその工程を取材したいとのことでしたね」

「はい」アナウンサーが答える。

「では、ご案内いたします。私は作業に戻りますのでどうぞご自由に取材なさってください。作業員には取材が来たら快く答えるようにと言っておりますので」

「承知しました。ご配慮ありがとうございます」


 この短いやり取りのあと取材班の四人は休憩室から出て左奥の方に進んでいく。そこに新しく導入したベルトコンベアがあり作業が行われているという。新たなベルトコンベアは三つ。一レーンにつき四人の作業員が配置されているから、この作業には十二人が従事していることになる。


 ここは三つあるレーンのうちのCライン。工場の一番端に当たる。そして自分は最下流の作業。つまり、わざわざここまで取材が来ることは無いだろう。予想通り始業時刻から30分経ったころテレビ局の人間と思われる人が四人なかに入ってきた。特にスーツを着たアナウンサーらしき女性が浮いている。蛍光灯で人工的に煌々と照らされ警告音や放送、ものとものがぶつかる音などの騒音に満ちた、利益を生むためだけの箱である工場には不釣り合いな存在。

 遠くで彼女が作業員にマイクを向けているのが見える。余所見をしているのがバレたら工場長に怒られるけど。と思っているといきなりアナウンサーの声が大きくなった。


「何の、作業を、なさって、いるんですか」


 一つ一つ区切ってゆっくりと大声で尋ねる様子は耳の遠くなった老人に話しかける介護士のようだ。いや、ようだ、というか実際アナウンサーは自分の質問を作業員が聞き取れていないと考えているのだろう。もう一度同じように質問した後あきらめたのか同じ質問を同じレーンの次の作業員にしている。

 まあ、その二人の作業は違うけどね。一人目は流れてくる死体の口をむりやり開けてプラスチックの筒を銜えさせる担当。こうやって開いた口にT字型の専用の金具を突っ込むのが二人目の作業。縦棒の部分が舌を挟み横棒の部分が口に引っ掛かることで舌が引き出されたままになる。そして三人目がその金具をグッと引っ張って舌を切る。四人目の作業、つまり自分の作業はベルトコンベアで流れてきた死体から筒と金具を取り外しそれぞれを別のレーンに流して分類し、切り取られた舌を手元の箱に入れて回収することだ。


「私の、声が、聞こえますか」


 アナウンサーがまた大声で繰り返している。おそらく取材に来る前に作業内容などは下調べしてあるだろうから、作業員に直接質問し回答してもらうという映像が撮りたいのだろう。ちなみに、この新ラインが稼働する本格稼働する前、私たちはお互いを使って作業の練習をしたのだが。

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