通わなくていいカウンセリング
今日はお悩みがあるということでお越しいただいたんですよね。
ええ。
では、単刀直入ですがどのようなお悩みですか。私の質問には答えたくなかったら正直に答えたくないですとおっしゃってくださいね。
はい、わかりました。お気遣いありがとうございます。悩みは、ええと、なんかもうどうでもいいな、みたいな。
それは何がどうでもいいんですか。
ええと。
何か漠然とした感じですか。
漠然とっていうか、全部ですね。全部どうでもいい。
何もかもどうでもいい、と。
はい。
これだけは話が違う。どうでもよくないみたいなのはありませんか。
ありません。
じゃあ、もう人生がどうでもいいみたいな感じですか。
そうですね。言ってしまえば。
なるほど。だからどうしようみたいなのは考えたりは。
ああ、特に何も考えなかったですね。
自殺願望みたいなのは。あ、別に自殺すればいいのにとかいうことが言いたいわけでは決してないですよ。
ええ。それはもちろん分かっていますよ。ましてカウンセラーさんですし。
ご理解いただけているようで何よりです。
自殺願望ですか。一時期、自殺したいなと思ったことはあるんですけど、なんか迷惑が掛かっちゃうなって思って。
それは線路に飛び込んだら何億と遺族がお金を払わないといけないというような意味ですか。
当然そういったのも含まれてるんですけど。たとえば練炭自殺みたいに比較的、自殺という行為そのもので周りに迷惑が掛からない方法を選んだとしても。
はい。
残された私の家族や友人が、万が一にも、自分にもっとできることはあったんじゃないかとか自分のせいで自殺に追い込んでしまったのかもしれない、みたいに思うことがあるのなら、それが私は嫌なんです。
なるほど。そういったことも迷惑に含めているのですね。
ええ。
確かにそうですね。それでは他殺だったらどうなのですか。
他殺というと。
たとえば、誰でもいいから殺したかった。みたいな殺人犯に突然後ろから包丁で刺されるみたいな。
ああ。
それだと遺族の方は罪の意識に苛まれづらいかと。
確かに。考えたことも無かったです。でも―—。
でも。
怖いです。すみません。こんなこと言っちゃって。
いえいえ、それが当然の感覚だと思いますよ。
先生はどうですか。
いやあ僕も怖いですねえ。
ですよね。
でも、他殺もダメとなると困りましたねえ。
困るというと。
だって自殺でも他殺でもないならねえ。
先生、別に死ぬことにこだわってるわけじゃないですから。私。
ああ、そうでしたね。どうでもいいとおっしゃっただけで。
はい、死にたいというよりは消えたいといった感じですかね。強いて言えば。
消えたい、ですか。
ええ。そうです。
それなら話は早いです。少し立ってもらえますか。
あ、はい。
消えたいんですね。
はい。
では、さようなら。
荷物置きにはバッグだけが残されている。
巷にこの相談室の口コミやレビュー、評判の類は一切ない。
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