ひとまず落ち着きたい
高校生の女の子が駅横のコーヒーショップに入っていった。この近くには共学の高校と私立の女子高があってあの制服は女子高のものだろう。何やら急いでいるようだったけれど、店に入る前に深呼吸しているから意識的にゆっくりと入ろうとしているように見えた。
「うるさいんだよ。いっつもいっつもさ。嫌なことばっかり言って。私の嫌なところホントよく知ってるんだからさ。人に期待してるくせにそんな素振りを見せずに強がって、それで無視されたり思い通りに行かなかったりしたらガッカリしたりするところとかさ――」
私はそうやってスマホに映っているあいつの顔に向かって自分の部屋で文句を言った。こうやって文句を言っている間にもあいつの囁きが止まらない。的確な言葉で私を責め立ててくる。それも陰湿に。ああ、何だか考えがまとまらない。思考がぐちゃぐちゃだ。
ってさ、いくら自分の脳内が整理できてないから紙に書き出そうったって「思考がぐちゃぐちゃ」とかそのまま書く必要ないじゃんね。しかもなんか小説調だしさ。自分に自分で呆れちゃうよ。しかもパッと目についた紙が数学のプリントだったからってその裏にボールペンで書き殴ってさ。まあ授業プリントでよかった。提出しなくちゃならないやつだったら大変だった。
とりあえず気分は落ち着いた。よかった。いつも嫌なことがあったり嫌な気分になったりするとこうだ。どうにかして自分の脳内をすっきりさせたくて何かに吐き出したくなる。家にいてしかも自分一人だったら大声で叫んだり、仲のいい友達が近くにいたら愚痴を聞いてもらったり。夜ベッドに入った後に一日を不用意に振り返っちゃって一人反省会が開かれてどんどん暗い気持ちになったときは自分一人のトークルームで長文を送ったり。
駅まで歩きながら、ふと明日遊びに行く約束をしている友達とのやり取りをもう一度確認しようと思ってスマホを取り出して画面をタップしたら間違って自分だけのトークルームを開いてしまった。それをそのまま閉じればよかったのに何を血迷ったか画面をスクロールして遡ってしまった。そこには自分のダメなところ、直さないといけないところ、言ってしまった言葉や陥りやすい思考回路なんかが丁寧にまとめられていた。同時にそのときの様子がフラッシュバックしてきた。
そうすると居ても立っても居られなくなって、いま上手く行ってるのも間違いなんじゃないか、相手は別に私となんか遊びたくないんじゃないか、そもそも向こうは友達だと思ってないんじゃないかとか色んなことが一気にこっちに迫ってきた。それでスマホを閉じてここまで走ってきた。とりあえず冷めちゃったカフェラテ飲もっか。
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