相合傘
あ。雨降ってる。
降水確率は30%だったから傘は持ってきていない。駅まで歩いて15分。パラパラだったら別に気にせず歩いてもよかったけれど、割としっかりと降っている。あいにく今日は一緒に帰るあてもない。部活がある日なら怜とかと一緒に帰るけど。帰宅部の真希を廊下で待ち伏せて二人で帰ってもよかったけど、なんかそんな気分でもなかった。いまは中途半端な時間だからそもそも人が少ない。
こんな風に下駄箱のところで考え事をしてる間に弱まらないかなと思っていたけど、そうも上手くいかないみたい。スマホで調べてみても夜まで降り続くらしい。
どうしよっかなあ。
お、橋本。何がどうしよっかなあなの?
そこにいたのは高梨だった。ていうか私、ひとりごと言ってたんだ。なんだか恥ずかしい。
いや、雨がさ。
そう言ってから後悔した。高梨は左手にブラウンの傘を持っている。
あ、ほんとだ。持って来てよかったあ。
高梨もそう言ってから後悔したみたいだ。雨の様子を窺うために顔を上げたけれど目はすぐ伏し目がちになった。だってこの状況。傘を持ってる自分と持ってない相手。これがまったく面識のない人ならスマホでも見ながら知らん顔して傘を差して通り過ぎればいい。友達だったら相合傘しようぜとふざけて言えばいい。恋人同士だったらここぞとばかりにいちゃつけばいい。
でも私たちは付き合ってた同士。過去形。高校入学から一年くらい続いた。三年生になった今も良き友人だ。元々共通の友達も多かったし。
誰か待ってる?
靴を履き替えた高梨が訊いてきた。なるほど、これで誰かを待ってると言えば高梨もそのまま気兼ねなく帰ることができるってことか。中々考えたじゃん。空気を読むのが上手いんだよね。高梨。でもなあ、今日部活が休みだったことも知ってるだろうし、真希がもう帰ったことも真希と同じクラスだから知ってるはず。ええと、どうしようか。これ以上黙ると不自然になっちゃう。
じゃあさ、一緒に帰ろ。
え?
つい口に出してしまった。高梨はさっと立ち上がって出口の方に歩いていく。
だって濡れるの嫌だろ。
高梨は私の手を引くでもなく腕をつかむでもなく、ついてこないのか? と振り返ってこっちを見てくる。その表情は何だか懐かしさを感じさせた。高梨は自然と右側を開けて傘を差している。吸い込まれるように私はそのかつての定位置に歩み寄った。
そういえば、今日部活は?
雨の音に混じって高梨のとぼけた声が左耳に響く。
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