いわゆるホテルに一人で行かなきゃ

 やっぱりちょっと入りづらいなあ。でも実際に見てみないと書けないしなあ。しかし、30のおっさんがなあ。それに一人で入るところじゃないんだよなあ。ま、入るしかないかあ。それにしてもなあ、何が悲しくてさあ。


〈いまが夜であることすら忘れさせるほどに煌めく歓楽街。そこを一本横に入るとキャッチの声も酔客の呻きも聞こえなくなる。そしてさっきまでとは違う空気になる。そこにはいわゆるホテルがいくつかある。高級感を出そうとする安っぽいつくりが目につくけれど、ここに来る人たちの多くはそんなこと気にしない。現に僕も頭の中も横にいる沙希のことで埋め尽くされている。いや、沙希のことというか沙希とこれからすることというか。白い塀に取り付けられた3つの小さなライトがそこに埋め込まれた看板を上から照らしている。それらしいアルファベットのホテル名が書いてある〉


 ホント入りにくいなあ。そういえばいくらくらいかかるんだ。休憩¥4000~ってデカい看板に書いてあったしそれくらいだよな。あの道路からも見える屋上の看板。で、敷地の中に入ったらいよいよ建物の中に入るのか。駐車場もまあまあ台数あるものなんだな。あれでもフロントに人がいないな。いや、そういうものか。よく考えたらそらそうだな。二人の中に水を差すような存在は要らないか。


〈タッチパネルだけが置かれたロビー。映し出されている部屋番号と値段、内装の写真がいやに生々しく僕たちに訴えかけてくる。沙希は僕を気遣って一番安い部屋の番号を指さしている。じゃあそうするかなんて内心、安心しながら画面をタップする。出てきたカードキーを手に取ってエレベーターに乗る〉


 途中の階で止まってドアが開いたら中には男一人なんていう奇妙なところを見られたら気まずいけど、そういうことにならないようになってるんだもんなあ。至れり尽くせりというか。ええと607号室はこっちか。


〈カードキーをかざすとガチャッとドアが開いた。とりあえず電気をつけて荷物を置く。沙希がこっちをじっと見てくる。これは着替えるから、というか服を脱ぐからこっちを見るなという合図。時間がもったいないという考えはさっぱりしてるのに、脱ぐところは見られたくないらしい。僕も何も言わずに支度をする〉


 ここで照明をいじれるのかあ。真っ暗にしたり仄暗くしたり、あっレインボーなんてのもある。それにしてもふかふかだし広いベッドだなあ。それでこの横にはこういうのも置いてあるのか。安いやつだろうけど。別に一人だし何をするでもないからなあ。二人にはもちろん何をしてもらうんだけど。あとはお風呂も見ておかないとな。

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