電話の中で留守番

 私は、というか私たちは声真似が得意なんだよ。だから今の仕事をさせてもらえてるんだねえ。きみたちも私が働いてるところ見たことあるんじゃないかしらねえ。いや、働いてるのを聞いたことがあるの方が正しいかもねえ。それにそもそも私たちは小さいから見えないよねえ。機械の中に居て隠れてるから見えないし。


 プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル プルルルルル


 おや、仕事だねえ。じゃあ、ごほんごほん。


「ただいま留守にしております。ご用件をピーという音のあとにお話しください」


 よいしょっと、ポチ


 ピー


『あー、もしもし、おじいちゃん? まさだよ。いちご送ってくれてありがとうね。また掛けなおします』


 うんうん、お孫さんからの電話だねえ。出られなくて悔しがってると思うようちのご主人様も。ええと、何だったかしら。あー、もしもし、じいじ? いや違うねえ。おじいちゃん呼びだったね。あと何だったねえ。いちごだね、うん、いちご。で最後にまた掛けなおしますだったね。ちょっと練習しよ。あー、もしもし、おじいちゃん?まさだよ。いちご送ってくれてありがとうね。また掛けなおします。だったね。よし、これでオッケーだね。それにしても小学生くらいの男の子の声ってのはまだまだ高いねえ。声真似ができるといっても少し辛いものがあるねえ。


 ガチャ


 今日はあたたかったですねえ、あなた。

 そうだねえ。いっしょに買い物に行ってよかった。

 そうですねえ。二人で買い物するなんて久しぶりでしたよ。

 新しい靴もいいのがあったしな。

 似合ってますよ茶色の革靴。

 そうかそれはうれしいよ。ばあさんもきれいなカーディガンが見つかってよかったなあ。

 そうですねえ。ほら、手を洗ってくださいよ。

 ああ、分かった分かった。お、留守番が入っておるぞ。

 だから手を。

 ああ、はいはい。よし、終わり。たしかこの丸いオレンジのボタンを押せばいいんだったよな。

 留守番ですか、ええ、そうですね。

 うむ。


 おや、お呼びだね。案外帰ってくるの早かったねえ。お孫さんもご主人も惜しかったねえ。もうちょっとで話せたのに。まあいい、そういうときのために私がいるんだから。


『あー、もしもし、おじいちゃん? まさだよ。いちご送ってくれてありがとうね。また掛けなおします』


 ううむ。なんとか声変わり前の声も出たの。よかったよかった。


 おお、ばあさんや、まさからの電話だったぞ。いちご届いたって。また掛けてくれるらしい。

 まさかい、元気そうだったかい。

 ああ、元気そうだったよ。声も弾んでおった。

 それならよかった。掛けなおしてくれるのを待ちますかねえ。

 ああ、そうしよう。ほら、ばあさん手は洗ったのかい。

 あら、洗ってませんねえ。いけないいけない。

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