きれいな粉雪

 「おお、コレはさらさらとした雪だなあ。パウダースノーと言うんだったか」


 「ええ閣下その通りでございます。喜んでいただけて何よりです」



 ここはロルソル国。家臣から閣下と呼ばれているハドリアが実質的に独裁を敷いている。決して健康的とは言えないその体型と脂でぎっとりとした顔。何やら今日もご満悦のようである。ロルソルの国土は山がちで住みやすい地形ではない。平らな場所はすべて砂漠地帯で暑さも酷い。そんな国土では常にと言っていいほど飢饉が頻発していて国民の多くは栄養不足で痩せ衰えている。あばら骨が浮き出ていることなど国民もだれも問題にしない。道端に大量に転がっている骨を見て、俺たちゃいつこうなるんだろうななんてボヤキながら日々食いつないでいる。

 そんななか国王であるハドリアは好き放題している。食べたいものを無理やり砂漠で育てさせたり、国民から奪い取ったり、高値で外国から買い取ったり。もちろん家は大豪邸。国で一番大きい樹がつくる日陰に建てさせたものだ。国民はタダ同然で建築を担わせられ、賃金や食べ物の支給などはなかった。ハドリアは衣服も汗をかくたびに新しいものに変えている。古くなったものは廃棄。それに対し国民は万年同じ服を、というか布切れを身にまとっている。垢にまみれた服を洗うことすらままならない。第一、洗濯に使えるほどきれいな水は手に入らないし、洗濯している間に着る二着目などだれも持ち合わせていない。

 もちろん家臣たちも国王のやっていることが正解だと必ずしも思っているわけではない。しかし閣下に賛同して行動をともにすればおこぼれがもらえた。気に入られた家臣は、つまりイエスマンな家臣は国王と同じ卓を囲んで食事を摂ることが許されるから、そのときに国王が残したものなどを恭しく頂戴することができるのだ。それに国王のお召し物を上手に褒めれば、もう要らなくなったからやろうなどとお下がりをもらうことができる。

 反対に今までハドリアに正論を言ってたてついた者は過去にいかなる功績をおさめていようとすぐに処分された。機嫌の悪い時など家族に別れの挨拶を告げる間もなくその首は飛んだ。こんな調子だから家臣には基本的に国王の言いなりになる者しかいないのだが、たまに民衆から成り上がった正義感などが紛れ込んでいたりする。そして国王からの無理難題を否定したりして失脚する。

 雪が見たいというのがここ数日のハドリアの希望であった。年中、日に照らされているロルソルの地では到底不可能と思われ、多くの家臣がやんわりと国王の機嫌を損ねないようにこの仕事を引き受けるのを断っていた。そんな中、パウダースノーをハドリアの前に出現させた家臣の一人は称賛された。



 「それでだ、雪で遊んだことだし儂も仕事をしようかと思ってな。とりあえず溢れかえっている国民の骨をどうしようかの」


 「閣下、その件につきましては既に対処済みでございます」


 「ほう、墓にでも埋めたか」


 「いえ、閣下の足元に大量に」

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