イン コンビニエンスストア

 あれ自動ドアが開かない。立ち止まったままよく見ると扉には取っ手が付いていて横に小さな字で PULL と書いてある。何だか重いその扉を引いて中に入る。

 いらっしゃいませーの声がしない。そういえば店員がレジにいない。とりあえずおにぎりをと思って棚の方に行くといらっしゃいませーとレジの奥から聞こえた。どうやら僕が店に入ったのに気づいていなかったようだ。たしかに入店の電子音が鳴らなかった気がする。そういえば店内放送も無い。たいていキャンペーンを知らせる音声なんかが流れているものだが。

 それにカゴもない。周りを見渡すとファックスの機械の後ろに置いてあった。なんでこんな分かりづらいところに。しかも設計ミスなのかカゴがぎちぎちに重なっていて取りにくい。

 そして、おにぎりはツナマヨが好きっと。お。ツナマヨが無いのか。というか全体的に種類が少ない。仕方ないと思ってスパゲティの棚を見るとおにぎりも並べてあった。なんだこんなところにあるのか、ツナマヨ。まったくなんでひとまとめに並べておかないんだ。後ろを振り返って店員に何か言おうかとも思ったが店員は一生懸命パンを陳列していたから邪魔するのも悪かった。そのパンの並びもめちゃくちゃだったけど。

 もしやと思いながら近づくとやはりそう。お茶やジュースも壁に埋め込まれている棚の色んな所に散らばっている。自分の好きな銘柄のお茶は一番右の棚の下から二段目にあった。

 もちろんその横の雑誌コーナーもよく分からない。すごい下の方に置いてあったり、上の方に置いてあったり、奥の方に挟み込んであったり。取りづらくて仕方がない。

 そういえばと思って文房具のコーナーも見たけれどボールペンがぐちゃっと散らばっていて見つけるのに苦労した。

 やっとのことで目当てのものを買いそろえた。レジには5人ほど並んでいるが他の店員はいないみたいでこっちのレジしか開いていない。と思ったら奥からもう一人出てきた。それなのにレジを開けることはせず商品の陳列のチェックをしている。しかもめちゃくちゃな並びを直そうともしない。なんなんだこのコンビニは。

 ようやく自分の番になった。店員が価格一覧表とにらめっこしながら値段を調べては合計金額を暗算している。少し待つと合計金額が言われたので財布から出す。おつりの計算も暗算している。

 しかも、うかつなことにレシートはなんて聞いてしまった。店員がポケットからメモ帳を取り出して一つずつ商品名を書き、その横に単価を書いて手書きのレシートを渡してくれた。

 商品を受け取ってまた重い扉を開ける。


 一体なんなんだ、この不便な店は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る