迎えのバス

 やった。

 私たちは助かった。

 私たちの国の名前が刻まれた大型バスがこの最果ての戦地までやって来てくれた。車体はボロボロで塗装も所々ハゲているけれど、どう見ても軍の車。これに乗ればなんとか本拠地までは戻れそうだ。負傷者も死傷者も多くて戦力は大幅に落ちてしまったけれど。

 この紛争はもとは一国における内戦だった。しかし石油が豊富な北側に先進国がついた。この国を助ける代わりに石油を安く売ってもらおうという魂胆だ。石油価格は売り惜しみでどんどんつりあがっていたから当然の考えだろう。一方南側は農村部。まともに戦闘したら北側陣営に一瞬で負けるはずなのだけれど、そうはならなかった。武器は最新のものだったし統率が取れていた。おそらくは現在石油を握っている国々が援助しているのだろう。それも資金だけでなく戦力も。

 こうしてこの紛争は石油をめぐる先進国の争いの場となってしまった。資金があるものだから中々終わらない。武器や戦車なんかもどんどん本国から持ってくるし、戦傷者が出ても軍から人が何万と派遣されるだけ。持久戦に持ち込もうと両者が粘るからまったく埒が明かなかった。

 どんどんと戦争は長引き、両陣営とも膨大な戦費と人数を割いた。しだいに持久戦の色も強くなり、食糧を大量に持ち込んだり負傷者を手当てしたりという任務のウェイトが高くなっていった。そうなると支援策として軍を派遣しろ、戦争ではないのだから可能だろと同盟国から圧力がかかったのだ。たしかに戦闘を行うわけではないのだったら。そう折れるしかなかった政府は軍を戦地に赴かせることにした。こうして私たちはここに来た。

 しかし、戦闘行為に慣れていない私たちを見逃す相手ではなく集中的に私たちが狙われた。そして私たちが弱っていると本陣営から応援を送らなくてはならなくなり、その手薄な時期を狙おうというのが敵陣営の作戦だった。だから中々こちらとしても応援を要請できなかった。そこには我が軍のプライドもあったのかもしれない。そうしているうちにジリ貧が悪化していき、どうにもならない状況になり、もう数日で残った人間全員で自害かというところまで追いつめられていた。そんなとき、このおんぼろバスが来たのだった。


 バスのドアが開く。仲間に続いて乗り込む。最後の一人が乗ってドアが閉まったときだった。


「————」


 はっきりとは聞き取れなかったが敵陣営の言葉だった。意味は、これから馬車馬のように働いてもらうぞといったところだろうか。


 私たちは終わった。

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