なかよし

「おはよー」


 ロッカーにカバンをしまっていた大野に声を掛ける。そして抱きつく。大野は本当に抱き心地がいい。この前そう言ったら太ってるって言いたいわけ、と言われたから頑張って弁明した。たしかに大野はモデル体型というわけではないけれど、背が高いから、太っているわけじゃない。こんなことを言いながらも長身ですっぽりと抱き返してくれる大野が好きだ。

 高一のときに同じクラスになった。お互いにクラスには同じ中学の子がいなくて周りに馴染めずにいた。そんなとき声を掛けてくれたのが大野だった。入学式の日、たくさんのプリントが配られ、あたふたしていた私にやさしく枚数を教えてくれた。出席番号が連続してたから席も前後でそれがきっかけでよく話すようになった。大野は背が高いのもあってか威圧感がありクラスメイトからは少し怖がられていたけれど、夏休みに入る前にはすっかりみんなに頼られていた。私だけの大野がみんなにとられちゃった気がしなくもなかったけど、それよりも大野の良さがみんなに伝わったことの方がうれしかった。

 そんな大野とも3年の付き合いになる。2年のときはクラスがばらばらになっちゃったけど、3年でまた同じクラスになれた。それでもう3月で卒業。私も大野も大学は推薦でもう決まってるから受験でピリピリしてるって感じじゃないけど、どこか落ち着かない感じはする。大野は考え事をしてるみたいで上の空。そうしてるうちに先生が来ちゃった。



◆◆◆



「おはよー」


 相変わらず元気でかわいい声。そんな岡村の声とは対照的に低い声で私もおはようと返す。いつものように抱きついてくるものだからカバンがしまえない。今日は資料集も何冊か入ってて重いのに。そう思いながら動かないでいると、何を思ったか岡村が顔を上げて見つめてきた。小悪魔的な上目遣い。そりゃクラスの男子から密かに人気が出るわけだ。

 一年生の最初の頃、後ろの女子が困ってそうだったから、つい話しかけてしまった。たいてい初対面の相手には体格や声で怖がられてしまうから、自分から声を掛けるのはやめようと思っていたんだけれど。可憐で大人しそうな見た目とは裏腹に案外、度胸のある性格みたいで私とも普通に話してくれた。そんなことを言ったら、別にどこも怖がるところ無くない? と言われたのを今も覚えている。私の低い声もカッコいいらしい。そんな風に褒められたのは初めてだった。私の一目惚れだった。今もこうして毎日話をする仲でいられるのは岡村のおかげかもしれない。いつも私のほうに来ては話し掛けてくれる。岡村のおかげでクラスメイトとも話すようになった。

 でも登校すれば会える、顔が見れる、おしゃべりができるなんて恵まれた環境もあと一か月ほど。大学は別のところだし、そんな簡単に会える距離にもない。もう終わっちゃうのか。


「ほら、始まるよ」


 耳元でかわいくて明るい声がささやいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る