15歳の僕と30歳の自分
このアパートが建て替えになるということでここ数日荷造りをしている。押入れの奥にあった段ボールは実家からこっちに出てきたときのままだった。一応なかを見てみるかと思って開けると思いのほか色んなものが入っていた。小学校の夏休みの宿題で作った貯金箱とかガチャガチャで集めた小さなフィギュアとか。中学と高校の通知表や卒業証書もあった。こんなもの取っておいてもどうにもならないけど、捨てづらかったんだっけ。ガサゴソやっていると封筒が出てきた。表には『30歳の僕へ』と書いてある。ああ中学校のときの道徳か学活か何かの授業でこんなの書いたっけ。偶然にも一か月後には30歳になるしもう読んでもいいだろう。
◆◆◆
いま何をしていますか。
僕は中学三年生です。今日は冬休み明け最初の学校です。学活の授業で書けと言われたので手紙を書いています。
さすがに30だからしっかり会社に勤めて働いていることだと思います。いま僕は新聞社で、できたらスポーツ部で働きたいなと思っていますがおそらく叶ってはいないでしょう。もし叶っていたら自分を褒めてあげてください。僕の予想では広告会社の営業あたりかなと思っています。まあその仕事も楽しそうなので全然アリですね。
プライベートの方はどうですか。とくに恋愛とか。30だと周りも割と結婚した人が多い感じじゃないですか。案外ちゃっかり相手を見つけて結婚してますか。せめても恋人くらいはいてほしいなと思います。いま僕はクラスの芹沢さんがきれいでしっかりしてる人だななんて思っているんだけど、さすがにそんな上手くはいきませんよね。そもそも中学の頃の知り合いといまも関係が続いていますか。どうですか。中々難しいと思うけど、もし続いている相手がいたら大切にしてください。
じゃあこの辺にしようかな。体調には気を付けてください。
15歳の僕より
◆◆◆
中々生意気な奴だな。自分だけど。
会社勤めであることは合ってるけど新聞社でも広告会社でもないな。スポーツ用品店の店員をやってる。中高とやってたバスケ用品を中心に販売を担当してる。目の前にお客さんがいらっしゃる仕事だからやりがいがあるよ。その分大変なこともあるけどね。
あと何だっけ。恋愛だっけ。彼女は今はいないなあ。去年の暮れに分かれたよ。あなたって本当に私のこと好きなの?張り合いが無いのよねって言われてさ。ま、こんなことぼやいても仕方ないな。ちなみに芹沢さんとは同じ高校に入れたけど、まあ勉強の甲斐あったってことだな。彼女の家族の都合で田舎に戻っちゃったよ。それからは会ってない。せいぜいおしゃべり楽しんどけよ。な、ほんとにな。
これあれだな。未来に向けた手紙は実際、未来になってから読めるけど、過去に向かって何を思ったって届かないんだよな。うん、そうだよな。うん。うん。
手紙を封筒に戻し、
段ボールに入れて、
ふたをそっと閉じた。
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