郵便受け

 大学に入ってから午前は授業無しみたいな日が週に何日かできた。そんな日は寝坊して昼前に起きるというのが定番になっていた。だから随分と長い時間寝ていられる。それでも何かストレスがあるのかどうもぐっすり熟睡とはいかない。単純に床に敷布団というスタイルが未だに合わないだけかもしれないけど。そのためかよく夢を見る。


 会計を済ませた商品をエコバッグに詰めながら店内の時計を見ると割といい時間になっていた。お魚なんかをじっくり見ていたからだろうか。田舎道を自転車で行くのは危ないし、暗くならないうちに帰ってしまいたい。

 結局、空が茜色に染まるギリギリ前に帰り着いた。エコバッグを机の上に置いて手を洗う。パンと人参は冷やさなくていい、もやしは冷蔵庫、冷凍の焼きおにぎりは冷凍庫。あと、ラップも買ってきたんだった。よし、こんなものかな。窓の外はすっかり暗くなっていた。カーテンを閉めよう。あいにく月は見えない。


 サーッ サーッ


 左右のカーテンを閉める音。


 ザーッ ザーッ


 えっと――。これは何の音。


 音がした気がする玄関の方を振り返ると何も異常はなかった。でも一応。そう思って廊下を通って玄関の様子を見ると郵便受けの真下が砂で汚れていた。なんとなく流れでめったに開けない郵便受けを開けた。


 ざざっー


 大量の砂粒が落ちてきた。薄い黄色のような茶色のような砂浜でよく見る砂が郵便受けの中に入っていたみたいだ。なんで。何が起きたの。誰かが入れたってこと。何のために。いつ。買い物から帰ってきたとには無かったはず。だってドアを開けたときに違和感は無かったから。じゃあ、このほんの数分の間にってこと。考え始めるとどうも不気味になってきて逃げ出したくなった。だけど外に出るのは怖い。だから現実逃避をすることにした。手に砂粒がついていることなど気にせずにベッドに飛び込んだ。


 目が覚めると十二時過ぎだった。太陽がだいぶ上から自分を照らしてくる。冬だというのに少しあたたかい。起き上がろうとすると首と背中が痛い。寝違えたのだろうか。とりあえず顔を洗って何か食べるものは無いかと考える。まだ回っていない頭を無理やり動かすと買い置きのカップ焼きそばがあることを思い出した。電気ケトルでお湯を沸かしながら準備をする。包装を破いて、ふたを半分まで剥がしカヤクをふりかける。お湯を入れて時間を計る。この間にお箸を準備してゴミも捨てる。ゴミ袋にはたくさんの砂が入っていた。

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