ツチノコ群発生につき運転見合わせ

 13分発の快速に乗れれば一番いいけど乗り換えが2分しかないから厳しいかな。その次は24分発の普通か。まあ、それでもいいか。スマホを見ながらエスカレーターに乗る。新幹線を下りたらあとは在来線で最寄り駅まで。そうすれば親が迎えに来てくれる。

 エスカレーターが終わると何やらざわめきが聞こえる。人もいつもより多い気がする。何事かと思って改札の方に歩くと。しまった。やられたツチノコだ。だから改札が封鎖されてて人が溜まっているのか。自分と同じ新幹線に乗っていた人が後ろからどんどんやってきて皆一様にため息をついている。ついてないや。他の路線からの乗り換えの人もどんどん集まってきて改札の前には大きな人だかりができた。黒い頭がわらわらと集まっている。集合体恐怖症の人ならこの後ろからの景色で一発KОだろう。

 駅員に詰め寄るおじいさんがいる。駅員は16時45分に復旧予定です。あくまで予定です。それより遅くなる場合があります。その場合はまたお知らせいたします。本当に申し訳ありません。と何回も繰り返している。構内にも放送が流されていて、お急ぎ、お疲れのお客様には大変ご迷惑をおかけしますが――と言っている。そうは言うものの鉄道会社は別に悪くない。強いて言うなら悪いのはツチノコである。改札の前に設置されているホワイトボードにも「田見、河城間でツチノコ群発生につき運転見合わせ中」と書いてある。その下には代替輸送が実施されている区間の地図も貼ってある。

 このツチノコ群というのは文字通り、ツチノコの群れのことである。人間が線路を設置した場所を狙ってツチノコが棲みついたのか、それともツチノコの住処に人間が線路を通してしまったのかは分からないが、近年、ツチノコの群れの発生が、特に線路付近で頻発している。公園や山の中での発生率と比べると異常に高い値であるから、電車のガタンゴトンガタンゴトンという音や振動がツチノコを呼び覚ましているのではないか、とおとぎ話のような仮説を立てている学者もいる。しかし一概には否定できない。なにせツチノコの生態についても研究が進んでいないのだから。

 さっさと駆除すればいいのに。そんな苛立った声がどこからか聞こえてきたが、そうはいかない。さっきも言った通りツチノコの生態については未解明な部分が多いから、世界的に野生のツチノコが発見された場合は可能な限り保護、その住居などを破壊することも禁止という方針が打ち立てられたのである。そのため、国内の鉄道各社は保健所と協力して保護、その後に電車が通れるような簡易的な工事を行い一旦復旧するという手順を採用している。


復旧予定時刻 17:00


 おや、いつの間にか復旧が延期されている。新種っぽい見た目だなんだって言って時間がかかってるらしい。どこから聞きつけたか、そう大声で吹聴して回るおばちゃんがこっちにもやってきた。

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