第六感と死
具体的には頭のどこが。と問われると困るが頭のどこかが針で刺されたように痛んだ。ああ、これはあれだ。あの人が悲しんでいる。そうだ、そうに違いない。私は直感的にそう思った。少し昔にもそう感じてあの人に会いにゆくと一人で彼女が袖を濡らしているときがあった。休日の朝9時すぎ。私はもう少し寝ていたいところだったけれど水を飲んで急いで寝間着を脱ぎ外に出た。彼女の家はそう遠くない。
久しぶりに走った。息が切れる前になんとか玄関まで辿り着いた。何も考えずに出てきてしまったから連絡など入れていない。そう思ってチャイムを鳴らす。数秒待ったが反応は無い。もう一度鳴らしてみる。今度は一分ほど待ったが反応は無い。鍵は閉まっていたがドアノブを何回か回すと中で錠が外れたのか開いてしまった。私は失礼しますと形だけ言って中へ入った。
返事はなく静かだったが六畳の部屋に敷かれた布団の上には毛布にくるまった小さな体があった。生きているかすら分からない。そんな不吉なことを思った自分を心の中で叱った。横の金属でできたテーブルには茶封筒が置いてあった。丁寧に糊付けされ上から〆の印が記してあった。私はそれをほんの少しの躊躇いのあと破った。
『こんばんは。
これを読んでくれている人は誰でしょうか。
警察の方でしょうか。それとも私の友人でしょうか。家族でしょうか。家族と言っても両親は亡くなりましたし弟は外国に行ったのですぐには戻って来れないでしょう。そういうことも考えると最初に目を通すのは友人になるのでしょうか。私としては友人の、それもTさんに最初に読んでほしいのですけれど。
好き勝手に長く書きますが死ぬ前なので考慮する事柄もないのです。お許しください。』
ああ、許すさ。私はそう思いながら二枚目の便箋に移ろうとした。けれど、ふと窓から入った寒い空気で正気に戻った。この人は自殺してしまったのだろうか。申し訳ないと思いながら毛布をめくり首に触れる。まだ温もりはある。脈も診ようかと思ったけれど気が動転しているのかまったく判断ができない。そんな私を嗤うかのように彼女は微笑んでいる。いや見守ってくれているのだろう。今すぐにでも外へ出てだれかを呼びたかったが、その間に彼女が逝ってしまったら悔やんでも悔やみきれない。そう思うと私は布団の前から動けなかった。彼女の美しさも要因の一つだとは思うけれど。
『もし私のところに真っ先に来てくれたのがTさんだとしたら感謝するほかありません。私は死の間際まであなたに感謝したことになります。そしてこれからもずっと感謝し続けます。いつも私が苦しんでいるときに来てくれた。とりあえず今からは私があなたを見守る番になろうと思います。』
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