急ナ来訪

 あーあ。なんか良いこと無いかナ。宝くじが当たるとかじゃなくていいからサ。そう思っても別に何をするでもない。それが僕だし、こんな性格だから良いことなんて起きないんだろう。そんなこと分かってるサ。だれに言われるでもなく。空は太陽が南中したばかりでまだまだ明るいけれど、目を閉じたり開いたりしてるうちにあっという間に日は傾いてしまうんダ。


 ピンポーン


 そう今日もそのはずだった。でも、ふと呼び鈴が鳴った。久しぶりに聞いたその音はこの家に移ったときとは異なっていたようにも思えた。宅配を頼まず、もとより来客の少ない僕に真実は分からないケド。


「おい居るんだろ、開けてくれよ」


 借金はしてないハズ。だけど自信がなくなってきたから黙っておく。


「俺だよ。仲田だよ。中学が一緒だった」


 ナカタ。なかた。えーっと中田? 違う違う仲田。そうだ。いたいたそんなヤツ。


「何のようカイ。もう20年も会ってないのに」


「特にこれといって用事はないけどよ。近くまで来たもんだから。ほら開けろよ」


 顔も見えず、声も変わっていて分からナイ。普通だったら訝しんで、というか何か裏がありそうだと思って開けないけど、今日は気分が違った。


「おお、元気にしてたか。相変わらず細くて色白だな。なんか精のつくもんでも食いに行こうぜ」


 僕は半ば無理矢理、引っ張られて外へ出た。部屋着にくたびれたスニーカーで。外は明るかった。それに仲田はよくしゃべるンダ。自分の近況に兄弟の話。昨日見たテレビの話。腹を抱えて笑うほどではないけれど、十分面白かった。少なくとも心の霧は晴れた。そういえばこの辺りにうまい鰻の店があるからそこへ行こうと仲田が言った。鰻なんてそんな金ないサ。僕はそう言うと仲田はお金ならあるから気にするなと言う。ここだ、仲田は一見さんお断りで有名な店の前で立ち止まった。


「仲田です」


「お待ちしておりました。2名さま、こちらにご用意しております」


 どうやら仲田は予約していたらしい。訊ねてみると、どうせきみのことだから家に居るだろうし、俺が払うんだから食べたいものを食べようと思ってね、だってサ。その鰻は食にうるさい仲田が言うだけあっておいしかった。



◆◆◆



 あまりにも美味しかったんで、今日は貯めていたお金を思い切って使ってあの店の鰻重を食べることにスル。僕は店員さんに声を掛ける。


「仲田さんにこの店を紹介してもらった者なんですけど、、、」


「ああ、仲田さんから。それにしてもご愁傷様です」

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