向こう側の世界はどんなの

 向こう側には何があるんだろう。いつもいつもこう思って暮らしている。こう思って息をして、こう思ってご飯を食べ、こう思って眠りについている。小さなころは周りの大人たちに訊いて回っていたけれど、最近は誰も取り合ってくれないと学習したから誰にも言わず頭の中でずっと考えている。そんな分からないこと考えてどうするのさとか答え合わせできないんだから時間の無駄だよとか言われるけど、まあそんなことは気にしていない。ただただ色んな想像をすることが楽しいんだ。

 例えばここの空は緑色だけど向こう側の空は何色なんだろうか。ここから見える範囲では向こう側まで全部きれいな濃緑に見える。雨が降っているときは雨の色のせいか真っ赤に見えるけど。それに向こう側は寒いのだろうか。ここは氷しかないけど、もっと寒いと氷なんてものはないのだろうか。地面は。地面はどうなっているのだろうか。ふかふかだったりするのだろうか。こんな無機質な金属に覆われただけではないのだろうか。

 じゃあ生き物は。二足歩行と思われる動物の骨が流れ着いたなんていう都市伝説もあるけれど本当だろうか。にわかには信じがたい。どう考えても三足歩行の方がバランスを取りやすい。カメラの三脚を見ればそんなことは一目瞭然なのに。百歩譲って実際に二足歩行だとすれば、それは進化の結果なのだろうか。そうだとすれば向こう側はさぞかし文明が発達しているはずだ。空を飛ぶ車なんてものは時代遅れなのだろう。ということは数百キロ単位のワープは、とうの昔に実現できているだろうし未来に移動するなんてことも可能になっているかもしれない。さすがに過去は無理だろうか。それとも過去の方が難しいなんて言われているけれど、案外そうでもなかったり。

 食べ物、食料についてはどうなっているだろうか。豚の木は品種改良が進んでもっとおいしくて成長がはやくなっているだろうか。それとも豚肉なんかは食べず牛肉ばかりを食べる生活になっているだろうか。だって牛肉の方がおいしいもんな。鶏肉に比べりゃ豚肉もおいしいけど。穀物はどうだろう。収穫されすぎて廃棄なんてまぬけな真似はせず、人口に見合っただけの分量を適切に栽培し分配する仕組みがあるのだろうか。

 そういえば言葉は。言葉はどうなっているんだろう。向こう側に言葉を話せる生き物がいたとしても、僕たちに埋め込まれている同時翻訳ソフトには入っていない高級言語を使っていた場合会話ができないだろう。それは由々しき事態だ。だってせっかく向こう側からこっちに来てくれたとしても、何一つ向こう側のことは分からずじまいなのだから。

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