そば

 ここは24時間営業のスーパーで私は今年もパートをしながら新年を迎えることになる。ここ数年で24時間営業のお店が少なくなってきているからか、幸い夜中もある程度お客さんはいる。ただ今は大晦日の暮れ。お客さんも流石にいつもよりは少ないし、何よりいつもとパートの顔ぶれが違う。いまは2人の外国人留学生と3人体制で回している。私みたいな年をとったばあさんはいない。みな子どもが孫を連れて帰ってくるとかで年末は家で過ごすというのだ。まあ言われてみればそういうものだろう。私は子どもに恵まれなかったし夫も50前半で死んでしまった。それももう5年前くらいのことだ。


 袋は大丈夫です


 ぼそっとつぶやくこの声は大学生くらいのお兄さん。今日は半額になったかき揚げそばが夜勤のお供に選ばれたようだ。寒そうな上着から覗く白くて細い腕。どんなバイトかは知らないけれど、学費が必要なのだろうか。私に子どもがいたらこの子の何個上くらいかしらと思いながらいつもバーコードを読み込んでいる。


 ぺちっ ぺちっ


 カゴに入れられるでもなく白いレジ台に打ち付けられたのは今日が賞味期限の生麺のそば2つ。こちらは3割引きとなっている。いつもこのおっちゃんは生麺ばっかり買っていく。この前聞いてもいないのに、できあいのものより生麺の方が安くておいしいからなと教えてくれた。大抵そういうときは工事が予定より早く終わったときだ。タバコを注文する17番という声も心なしか朗らかで聞き取りやすい。


 一括で


 ばっちりとキマったメイクで現れたのは駅の飲み屋街のキャバ嬢。いつもはこんな時間に来ないで働き終えたあとに来るのに、急ぎの何かでもあるのだろうか。そう思ったけどカゴの中には乾麺のそば一つのみ。画面に表示された価格を読み上げながら、どうも今日はそばがよく売れるなと思った。なんでだろうか。みんな年を越すときはそばが食べたくなるのだろうか。年を越す、年を越す、年を――。ああそうか年越しそばなるものが日本にはあったんだった。たしか幸せが伸びるとか、よくないものを新年に持ち越さず切ってしまうとかいう由来だったか。

 そう気づいてしまうと年越しそばがどうにも食べたくなって来た。仕方ないから2人に早めに休憩を取ることにするからよろしくと告げて、カップ麺売り場に来た。休憩室にはポットが常備してあるからお粗末だけれどコレで年越しそばだということにしよう。食べながら日をまたぐと不運を持ち越してしまうとかで良くないらしい。そばを買っていった3人もそうやって焦っているのかと思うと何だか微笑ましくなった。

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