サンタの正体

 子どもの頃、よく大人たちに訊いたものだ。サンタさんっているのかって。


 ある人はこう答えた。「いるよ」

 だよね、よかった。でも、じゃあ誰なの。

 他の子どもが言った。「お父さんだよ」

 え?でも、お父さんはサンタさんはいるって言ってたよ。

 他の大人は言う。「サンタさんはフィンランドっていう外国にいるんだ」

 へぇと思った。わざわざそんな遠い所から来てくれるんだなんて感心した。お金持ちでやさしいんだなとも思った。

 別の人が追いかけるように言った。「それはサンタクロース協会みたいなのがフィンランドにあるだけだろ」

 なあんだ、なるほど。そういうことか。そのときも妙に納得した。

 ある人はそれを聞いて言った。「サンタさんはみんなの心の中にいるんだよ」

 そういえば、サンタさんはサンタさんを信じる人のところにしか来てくれないみたいな話もあったっけ。でも、それだったら、毎年12月25日の朝、目が覚めたら枕もとに置いてあったあのプレゼントをどうやって説明するの。たしかに今はもう朝起きてもプレゼントは無いけど、子どものときには確かに在った。それにあのときの父親と母親の顔は到底嘘をついているようには見えなかった。


 なんで急にこんなことを言い出したかって。それは今が12月25日になったばっかりだから、というのはあるのだけれど、もっと他の、それも大きな理由がある。もう五十数年も生きてきたが、こんな経験は初めてだ。目の前に大きな穴が開いたのだ。あのイメージ通りのタイムマシンに乗るための穴が。その大きな穴を覗くと子どもの頃に漫画で読んだ通りの時間のトンネルのようなものが広がっていた。でも、タイムマシンは無くてそのまま飛び込んでいく感じだ。もう歳だからそんなところまで足が上がらないと思っていたら頭から吸い込まれた。それに行き先も指定しなくていいらしい。そう思っていると上からラッピングされた小箱が降ってきて、それを手に取り不思議がって眺めていると、どこかに着いた。


 そこは子どものころに住んでいた家の子ども部屋だった。穴から覗くと2段ベッドの上で寝ている兄の寝顔が見える。兄がこの年齢ということは私は小学校低学年だろうか。すでに兄の顔のそばにはプレゼントらしきものが置いてある。どうやって降りようかと思っていると穴が絨毯のところに移動してくれた。なんて気が利いてるんだ。ありがたい。


 私はさっきトンネルの中で受け取ったプレゼントを寝息を立てている私の枕もとに置いた。穴が私をまた吸い込んでくれた。

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