悪いこと続きのときは
はあ。なんて住みづらい世の中なんだ。朝は目覚ましに起こされ、食パン一枚食べて通勤電車に揺られ、ビルしかない街に入り夜まで働く。せいぜい昼休みのランチが息抜きだけど、それも終電まで残業かななんて思いながら食べるとおいしさも半減。新しいラーメン屋ができたらしく、そこの魚介豚骨がヤミツキと誰かが言っていたっけ。じゃあ、今日の昼はそこに行くことにしようか。
課長、この案件でお電話が。
ああ、サントンさんからだな。分かったありがとう。
A4の企画書をめくりながら電話を替わる。
はい、お電話替わりました、課長の水沢です。ええ、はい、はい、プランBを何点か改善して商品化で検討の方向、はい、はい、承知しました。メールお待ちしておきます。はい、では、また、はい、改善案できしだい、メールでお送りいたします。はい、はい、失礼します。
ふぅ。結局、またやり直しだ。うっすらと見えていた残業路線が確実なものになった。
課長、すみません。
おお、どうした平野。
発注の数、間違えてたのが発覚しました。もう製造済みで返品不可らしいので、明日予定通りうちの倉庫に入れるんですけど。
間違えたってどれくらい。
0二つです。
はあ。うちが扱ってるのは家電なんかの部品だ。しかも確か平野に頼んでいたのは、あまり使わないけどあると重宝する、旧タイプ用の部品。こりゃあ使いまわしがきかない。
分かった。とにかく報告してくれてありがとう。こっちで色々と模索してみるよ。
はああ。残業とかいう単純な問題じゃなさそうだ。今日の唯一の楽しみであった魚介豚骨も先送りだなこりゃ。机に栄養食品が常備してあるからこれでいいか。プレーン味しか残ってない。とりあえず、会議までにデータ打ち込んで関係部署に送ろう。
もう昼前。会議で得られたものと言えば期限の近いタスクだけか。何だろう。やりがいなんてものはとっくの昔にどこかに落として来たのだろうか。段々と気分が滅入ってくる。螺旋階段を落ちていくように。はああ。あいにく缶コーヒーもさっきのが最後の一口だったようだ。こんなときの対処法は知っている。別に缶コーヒーをもう一本買ってくるとかそういうことじゃない。
自分は人間のフリをしている
と考えるのだ。自分は人間として遼東電器に勤め、しがないサラリーマンとして課長の職に就いている。本当は人間ではないのだけれど、人間の実態を知るには潜伏して交流するのが一番というわけだ。宇宙の高次文明出身の日もあれば、30世紀から送り込まれた日だってある。はたまた深海魚の潜在政府の特派員だった日もある。さしずめ今日は某諜報組織がつくった最新人型アンドロイドということにしよう。もちろん、能力はお墨付きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます