犬島の犬は殖えない

 犬島と呼ばれている島がある。正式名称は別にあるのだが、皆そう呼んでいる。この皆というのは島民ということではない。だって犬島には人が住んでいないのだから。他にもあまり動物は住んでいない。鳥も飛んでいないし周りの海にも魚はいない。せいぜい海藻が漂っているくらいだ。代わりにいるのはその名の通り大量の野良犬。いまは犬に囲まれることができる観光スポットとして有名だ。週に何度か日帰り旅行のフェリーが島の小さな港につく。そのフェリーは観光客でぎゅうぎゅう詰め。老夫婦や若いカップル。長期休みの季節には家族連れも目立つ。


 この島の犬は数こそ多いものも爆発的に増えたりすることはない。それがなぜかは詳しく分かってないが、最近その理由について研究結果が発表された。それは短い寿命で犬が死ぬことで、自然的に個体数が抑制されているというものだ。ほったらかしの野良犬だから勝手に数は増えていく。でも同時に減っていくというのだ。ある年齢を迎えた犬たちは示し合わせたように死んでいく。これは別に外敵に食べられるとかそういった話ではない。犬たちが何らかの理由で一定の年齢を境に死んでいくのである。


 その年齢は5年程度。これは先の研究によって明らかにされたものである。しかし、この5年という数字が何を示すかは分かっていなかった。だから、この研究は行き詰まったかに思われていたが、犬島について調べていたもう一つの研究班がある結果を発表した。それは不明だった犬島の犬の生態、とくに食についてだった。たしかに言われてみれば、島の犬が何を食べていたかというのは分かっていなかった。犬は雑食とはいえ、肉を食べることに違いはない。だが、この島には犬以外に目立った動物はいない。うさぎや鳥もいない。蛙もいない。ではタンパク源はどうなっているのか。そこに着目したのがこの研究であった。調査方法はいたって簡単で犬がよく生息している地点にカメラを複数台仕掛けて映像を記録するのだ。


 結果、犬たちは死肉を食べていることが分かった。研究者たちは当初その映像を見たとき人の肉を食べているのだと思い大騒ぎしたらしい。だが拡大してみるとどうも人の遺体には思えない。それに観光客しか島を訪れるはずはないのだから行方不明者が出たとすれば、すぐに気づくはずだという話になった。その数週間後、では何を食べているのかという話になり再調査が始まった。


 その結果、犬たちは犬の死肉を食べていたことが分かった。つまり犬の個体数が増えなかった原因は犬たちが犬に食べられたからということだ。しかし、犬たちは温厚で同族で争ったりしない。それにそういった映像は一つも記録されなかった。だから、犬はやはり襲われたのではなく、自ら死んだということだ。となると、外的な要因でなく内的な要因で死んだということである。ということは食べ物もしくは病気ということになる。


 では、犬は何を食べているのか。

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