動物クローンの実用化
僕の会社はバイオテクノロジーを扱っている。最近はありがたいことに少しずつスポンサーも増えてきて、事業規模も大きくなってきている。その分仕事量も増えるが、まだ従業員の規模は駆け出しの頃と変わらないから、いまが頑張りどきだ。
バイオテクノロジーと言うと最先端なことは伝わるが、具体的に何をやっているかはサッパリだ。だからこう付け加える。クローン技術の実用化を進めています、と。そう説明すると大抵の人が驚いてくれる。
ただ詳しい人の反応は違う。それも至極真っ当で、実はクローン技術は身の回りにありふれたものだ。日本で見られるソメイヨシノの樹すべてが同じDNAを持っているという話を聞いたことがある人もいるかもしれない。
そこで「動物」のクローン技術の開発・研究を行なっています、と言うとこれはもう驚かれる。ドリーの例を持ち出して怒鳴り出す人もいる。
まあ、そんな感じで僕は売り込みを行う毎日だ。一日に各地の多くの企業や研究機関を訪問することはザラ。社長さん自ら出向いてくださって、、、と行く先々で恐縮されることも多い。そこで秘書が代わりに、それが弊社のモットーですのでと一言付け加える。ここまでが営業である。無論お客さんの方もただ感心から言ったのではなく、社長が暇してる会社なんて信用できないということを揶揄する意味もあるのかもしれない。
それに動物クローンの実用化なんて謳っているけれど、実際に実用された例はあるのか、と正面切って訊ねられることがある。そういうときは表面上の資金の移動や事業のビジョンだけでなく、詳しい企画書などをお見せすることにしている。お陰で僕のブリーフケースは常にパンパンである。
しかし時たま資料を取り出している僕に秘書が目配せする場合がある。これは、この相手はこの組織の中でもかなり信用できるし、裁量次第で動かせる資金の額も相当だ、そういう情報が上がったという合図である。その秘書の見立てを踏まえ僕自身も信頼できそうだしやり手のようだと感じたら別のフェーズへ移る。
あのですね、こういった資料はもちろん重要なのですが、もっと実用化に成功した例があるので、今回特別にお話ししますね。全ての取引相手さんにお伝えしているわけではないので、口外なさらないことをお約束していただけますか。
こう断って相手が首を縦に振れば話を続ける。
僕に何か異変は感じませんか。もし、お感じになってないようでしたら喜ばしい限りです。僕はクローンなのです。本社より東の営業が私の担当でございます。他に西の営業担当がおりまして、本人は本社業務を行っております。西の者は御社の営業の方もご参加のプレゼンに出席しておりますから、確認してくださっても構いませんよ。
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