ペリカンは荷物を運ぶ

 ハトは伝書鳩。カラスは魔女の使い。フクロウは魔法使いの使い。ウは鮎を獲る。ニワトリは朝を告げる。人類に尽くしてきた鳥はこれくらい。あとは食用や観賞用といったところだろうか。牛馬と違って車を引くこともできないし。

 そんな常識が最近塗り替えられた。

 このアイディアが検討されてから5年ほど経って、ドローンによる無人配達はビジネスモデルとしてはだいぶ確立されてきたが、肝心のドローンの性能の心配があった。多くのドローンを同時に操るのにどうしても不安があったのだ。

 もちろん一機に一人とか複数機に一人とかいう具合で操縦士か管理官を配備すれば問題はないのだが、それでは無人配達にするメリットが失われてしまう。配達員よりも特殊なスキルを持った人材が同数かそれ以上求められるだけになってしまうのだ。

 しかしそこで諦めなかった企業があった。さすがはドローンにいち早く目をつけたベンチャーの社長とでも言うのだろうか。彼は企画会議でこう言い放ったという。この言葉は後に笑い話としても伝説としても語り継がれることになる。


 「ペリカンは荷物を運ぶ」


 当時を振り返る社員はこうも話す。社長がそう言ったのに合わせて近くの動物園から借りてきたペリカンが会議室中を飛び回りました。と。


 まあ、このプロジェクトについては社長直属の企画班つまりA班によってある程度まで詰められていたようで、とりあえずプレリリースしてみましょうという決定が会議でなされた。

 この後の展開は早かった。ペリカンが嘴の下の袋で宅配をするというプロジェクト自体がすさまじく斬新で、それでいて実用的。プレリリースでの成功はたちまち一企業の稼ぎ頭になった。

 しかし、話題沸騰中の当時、社員が話したものの日の目を見なかったインタビューというのも一部あった。


 「唯一、謎だったのがプレリリース時の資金なんですよね。いくら社長の実力が一部の資本家に認められていて尚且つ人望があったとしても、あの大規模なプレリリースの費用は準備できないと思うんですよ」


 「プレリリース時に運んだ荷物の内容というのは詳しい説明が無かったんですよね。どういった経路で協力してもらったとかいう話も」


 そういえば当時の社員のインタビューではないものの、ペリカンが注目されたことで飼育員や専門家たちも取材を受けていた。そこでもカットされた発言というのはあった。


 「ペリカンは影響を受けずに何でも丸呑みできるんですよね。例えば、人間に強い影響のあるもので言えば覚醒剤とか」

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