冬に訪れる祖母の家
前にこの祖母の家に来たのは二年前だったろうか。少なくとも去年は来ていない。もしかすると三、四年前かもしれない。私が子どもだった頃は夏休みか冬休みに家族四人でよく遊びに来たものだったが、近頃は来るのは妹の私だけになった。兄が大学受験を機に行かなくなり、その年からなぜか私だけが行くようになった。父にとっては元々義母の家だし、母は母で毎年顔を見たいというほどでもないということだ。
そんなことで始まった私の一人旅だが今や冬の恒例イベントになっていた。大学生のころ時間があったのは当然のことながら、社会人になっても年末の帰省の前に一、ニ泊している。ちなみに祖父は私が小学校に上がるときに持病で亡くなったから、実質この片田舎の大きな一軒家は祖母の家というイメージだ。
それに日本海側よろしく冬はたいてい雪が降るから、白く染まった屋根の印象が強い。でも生活に支障が出ないように雪かきは行き届いてる。腰の曲がった80過ぎの祖母に雪かきは難しいだろうけど、果たして誰が行っているのだろうか。
こんな感じで祖母の家には拭えない謎がわずかにある。もう十何回と来ているからあまり違和感を持つことは少なくなったが、その分ふと気づいてしまうと随分と驚く羽目になる。まあ、こんな風にここに来たときのことを思い返しているのには理由がある。必死に記憶を遡る必要に迫られているのだ。
私が寝泊まりするのは母が使っていた部屋と決まっていて、二階には他に祖父母の寝室と叔父が使っていた寝室がある。一回はダイニングキッチン、リビング、和室がある。ご飯はダイニングで食べ、そのほかはテレビのあるリビングで過ごす。
そう私が気づいたのはその部屋に入った右手側の壁に掛かっている小さな絵についてだ。祖母の家は基本的に祖父が生きていたときと変わっていない。しっかりとした手入れによって完璧なほどに維持されている。扉の軋みや外壁の汚れなども気づいたらすぐに直しているようだ。だが唯一、唯一変化ているのがその茶色の木の額縁に入った絵。これだけが変わっているのだ。
それでも記憶違いかと思ってスマホのアルバムを調べてみると、たまたま映り込んだ写真が二枚あった。片方は一輪の黄色いチューリップの油絵、もう一つは骸骨のパステル画だった。そして今は雪だるまの塗り絵。
こんなことを考えているといつの間にか視線がそっちに移っていたらしく、祖母に名前を呼ばれた。
ねぇ、幹子ちゃん、コマーシャル終わってるわよ。気分でも悪い?少し寒いかしら?
私は咄嗟に答えられずにいた。
あら、もしかしてあの絵が気になるの?毎回ありがとうね、やっぱり幹子ちゃん、センスがいいわ。
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