黄昏時の来客
一日の間、太陽は僕らに色んな姿を見せてくれる。朝日は清々しく、真上からギラギラと照り付けた太陽は空を赤く染めて消えていく。簡単に言ってしまえばこれだけだけど、その間に同じ格好は一つとしてない。そんな中でも一番、太陽が黄金色に見えるとき。それが黄昏時だ。赤に染まり始めた空に太陽が沈み始め消える。そんな短い間と言ってもいいかもしれない。
今からするのは、そんな時間に森の中の小さな洋館を訪ねるお客さんたちの話。
表情をその渋い顔にうずめたツキノワグマが今日のお客さんみたいだ。いつも以上に表情が読み取りづらい。そんなときはキイチゴミルクティーを淹れるんだ。もちろん特製のおっきなマグカップでね。
はい、どうぞ―—ああ、ありがとう。ここで初めて彼は声を出した。いつもより半音低いようにも聞こえる声だった。その目は泳いでいて――と思ったけど思い違い。奥のキッチンを覗き込んでるんだね。
ちょっと待ってね。少しだけ焼き直すから。言い当てられた彼は顔を赤らめながら、ぼそぼそとつぶやき始めた。
最近、話しかけても返事が無いんです。多分原因は私です。
さあなんて返そうか、そう思って考え込んでいるとオーブンが鳴った。すかさずミツバチさんが昨日持ってきてくれたレンゲの蜜を添える。
ああ、ありがとうございます。顔をほころばせながらそう言った彼は、大きなスコーンに蜜をたっぷりかけて頬張った。そして満足気に帰っていった。少し肩透かしを喰らった気分だけど、元から相談をしに来たわけじゃなかったのかもしれない。遠のく彼の足取りを見ていると不思議とそんな気がした。
また、太陽が何回か昇って沈んだあとのお話。
扉の低い位置を叩く音がいくつも同時に鳴った。そぉっとドアを開けるとそこには7匹のシマリスさんたち。みなが我先にと暖かい部屋の中に小走りで入ってくる。浅い陶器に薄く張ったとホットミルクを出した。あいにく大きなお皿一枚で出しちゃったものだから、ここでもまたみんなが競うように飲んでいる。大丈夫だよ、おかわりはたくさんあるから。そう言うと一匹が顔を上げ話し始めた。
最近、森が静かなんです。動いている気配がない。そう思いませんか。
うーん、あんまり心当たりはないけど、、、。具体的にはどんな感じ?こう問いかけると牛乳で白っぽくなった口で一斉におしゃべりが始まった。ワシが飛んでいない、風が吹かない、葉が落ちてこない、木の実がならない、キノコが生えてこない、雨が降らない。どれもそう言われてみれば、そうだと納得し、いったんドアを開けて森の空気を室内に入れてみる。真っ赤な空に漂う空気からはどこかいやな感じがした。
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