陳年保という生薬

 ガチャ


 どうも、サンシン薬局大通り店さん、こんにちは。

 こんにちは。

 お荷物お届けに参りました。

 あー、はいどうも。

 ええと、こちらとこちらが承っていたお薬になりますね。

 はい。

 ええと、今週の中身なんですけれどもフィロバピリンとドルドトメキシンと陳年保ちんねんほうの原料になります。

 はい、承知いた―—。

 おお、配達ご苦労様です。いいよ原さん、ここは僕が代わるから。持ち場に戻りなさい。

 あ、はい分かりました。


 ちなみにフィロバピリンは咳止めの後発薬、ドルドトメキシンは血圧を下げる薬の後発薬で、原料を持ってきたという陳年保は老化を抑える生薬である。また、ここサンシン薬局大通り店は大通りという名前からも分かるように地域の基幹店舗であり、調剤に必要な設備も充実している。


 配達に来たのは白髪の老人。対応していたのは新人薬剤師の女性だ。途中で割って入ってきたのがこの薬局で一番偉い、薬局長とでも言うのだろうか、の清藤である。


 小山さん、いつもありがとうねぇ。

 いえいえ、こちらこそ。

 それで今日はお連れさんは?

 ああ、連れはいないよ。


 その言葉を聞いて清藤はなんとか不満を顔に出さないように頑張った。いつも清藤がわざわざ小山を出迎えるのは彼に連れがいるからなのだ。これは別に清藤が薬局長に就くような歳になっても好色であるということを表しているのではない。だって小山がここサンシン薬局大通り店に連れてくる人物というのはいつも違う人なのだから。だが、これもまた別に小山が女遊びをとっかえひっかえ楽しんでいるという意味でもない。まあ、はじめから連れが女性だなんて言っていないのだけれど。ただ、小山が連れてくる人は男性、女性両方いたが年齢は大抵、60を過ぎていた。そして毎週小山は一人で薬局を後にする。つまり、一緒に来た人物のことは薬局に置き去りにするというか清藤に預けるのだ。


 まあ、いつもはこんな調子だから清藤が怪しむのも無理はない。というか彼の目的は小山ではなく、その連れなのだから不満を持つのはよく分かる。しかし彼も子どもではない。連れはいないと言った小山の出方を窺っている。その様子を察した小山が近所の喫茶店で話そうと持ち掛けた。清藤もちょうど昼前だから早めの昼休憩を取らせてもらうことにすると言って、受け付けをしていた原にその旨を告げた。




「で、連れはいないってどういうことだい、小山さんよ」

「だから俺が今日は連れでもあるんだよ」

「それは一体どういうことだい」

「つまりな、俺はもう自分の周りにいる原料を提供しつくしたんだよ。それで今週はどうしようかな、清藤のやろうに言い訳したかねぇな、なんて思ってソファーに腰掛けた膝から下を眺めたら、俺の長年活躍してきたセンサーが反応したわけ。こりゃ上物だ、って」

「なるほどな。おめえが品質で嘘をついたことははじめから一度もありゃしねえからな。信じよう。じゃあ、いっしょにバックヤードから入って薬局長室に行こう」

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