ババ抜き
なあ、アキ。これ楽しいか?
うん。すっごく楽しい。
あ、そう。だったらいいんだけど。
なんで?カズは楽しくないの?
いや、楽しいよ。うん、楽しい。
小学校に上がったばかりのアキは俺の幼馴染だ。この住宅地はお年寄りが多くて子どもはめずらしい。だから5才下とはいえ、こうやってアキと遊ぶのはありふれたことだ。アキも俺も学童には入っていないからほぼ毎日俺がアキの家に行って宿題を見たり、いっしょに遊んだりする。今日はアキが算数ドリルをやっている間に俺は漢字練習帳を1ぺージ終わらせた。あとは6年生にもなって音読の宿題があるけど、さすがにアキに聞いてもらうわけにはいかない。お母さんが帰ってきたら今晩もお願いしよう。
ほら僕あと3ぺージだよ。
お、そうか。俺もあと4ぺージだぞ。じゃあ、どれにしようかな。
アキは俺がどれを引くかに興味があるみたいだけれど、俺はどうでもいい。だって二人でババ抜きをやっているんだから。自分がババを持っていないときは相手が持っていることが確定するし、自分が持ってるカードの片割れは絶対相手が持っているわけだから、ババ以外なら何を引いてもペアにして捨てることができる。だから今は俺が4枚でアキが3枚。今から引けば3枚と2枚。次にアキがババ以外を引けば2枚と1枚。最後に俺が引いてアキが0枚になって勝つ。そこまで全部予想がつくのだがアキは気づいていないようだ。まあ、小1だし気づかないか。こんなことを考えながら8のクローバーとダイヤを捨てる。
じゃあ、これにする。あっ。
あいにくアキはババを引いたみたいだ。表情なんて見なくてもそんなことは一目瞭然なのだけど、アキは慌てて何もないかのような素振りを装う。俺にはもともとバレている、というところまでは頭がはたらかないその純粋さがかわいらしい。
うーん、俺はこれっ。
容赦せずにババ以外を取ったのでこれでアキが2枚、俺が1枚。ここで自分の番が回ってきたことで何かを察したのかアキはつまらなそうな顔で俺のカードを引く。
あぁ。残っちゃった。
俺の勝ちだな、アキ。
カズ絶対ずるした。ずるしたでしょ。
してないよ。だって先はアキが勝ったじゃん。
たしかに。今日は僕が2回勝ったから僕の勝ちだね。
いつの間にか反撃のチャンスを失った俺だったけど、もういい時間だった。
じゃあ、カズ片付けといて。今日は僕の勝ちだから。
はーい。
俺が勝った日もなんやかんや言って俺が片付けてる気がするなあと毒づこうと思ったけど、アキが漢字スキルを開いて勉強を再開し始めたのでやめておいた。俺はトランプをケースに入れながら、その小さな背中を見つめた。
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