隊長と志願兵

「なんでですか、隊長。僕は第二隊大尉に立候補しているんですよ」

「ダメだ。ダメだと言ったらダメなんだ」

「なんでなんですか」

「だから、ダメだと言っているんだ。分かったら早く出ていきなさい」

 背の高い男はそう高圧的に言い放つと扉を閉めた。少年は驚きつつ後ろに飛び跳ねた。それを見た男は素早く鍵を掛けた。少年は廊下の絨毯を見つめながらため息をついている。今日もダメだった、そう言いたげな顔だった。


「なんでダメなんですか、隊長。あの少年はあの世代ではトップクラスに優秀なんですよ。動きは機敏で小銃の扱いにも長けていて、馬を乗りこなすこともできる。それに近距離戦での格闘技も習得しているんですよ」

「ああ、知っている。そんなことは」

「なら、何が気に入らないんですか。精神面ですか。彼は非常に強固な精神力と愛国心を持っています。それに何よりあのやる気。もうこうやって隊長のところに直談判にしに来て半年ですよ。非の打ち所がないじゃないですか」

「確かにその通りだよ」

「じゃあ、なんできみはあの子を大尉にしてやらないんだ」

「あの子の優秀さは私もよく分かっているさ」

「なおさらじゃないか。若いころのきみにも負けず劣らずだと僕は思うよ」

「だからだよ。だから私はあの子をこの隊に入れたくはないんだ。あの輝いた目を見ると昔の自分を見ているかのようだ」

「それの何が悪い。自分の志を継いでくれる最高の人材だとは思わないのか」

「いや、彼を見ていると私が一番つらくなるんだ。私のようになっては欲しくないんだよ。来る日も来る日も抵抗してこない敵を射殺して、かと思えばゲリラ戦を仕掛け民衆までもを抹殺する。そうやって国ごと転覆させようとして配下に入れる。そんな日々に、軍部のやり方に嫌気が差しているんだ。そう思ったのは30過ぎ。でも、もう遅かった。ありがたいことに出世ルートに乗った私は段々と軍部に近い立場になっていった。今では忌み嫌っていた対象に成り果ててしまったんだ」

「そんなことを言うな。きみは我が軍の、我が国の英雄じゃないか」

「それも過去の話だ。今は隊長という名の人事長だ。でも、それがせめてもの救いだったのかもしれない」


 少年は絨毯の上でうずくまりながら男たちの低い声を聞いていた。やっぱり、そういうわけで隊長は僕を隊に入れてくれないんだ。そう納得しながらも彼にはうれしいことが一つあった。それは自分が隊長の血を腹違いでも継いでいるのだということが裏付けされたからだった。

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