双子と二股
「俺はもうそろそろ寝なくちゃならないな。じゃあな、またいつか。」
ドアのチャイムが鳴るといつもこうやってこの男はベッドに潜る。そして女は玄関に向かい、さっきベッドに潜った男とそっくりな顔の男を出迎える。
「おかえりなさい。ご飯はできてるけど」
「ああ、ただいま。とりあえず風呂に入るよ。そのあとにご飯は食べる」ジャケットを脱いでバッグを下に置きながら言う男。
「ええ」
「今日は何だい?」
「サバの塩焼きよ」
「そうか、そりゃうれしい」
こう言って男は洗面所に消えていった。それを見届けた女。
「やっぱり好きなものは一緒なのね」
「ああ。そりゃ双子だしな。ちっ、あいつが飲みにでも行けば俺が食えたのに」
「まあまあ、次の機会にでも作るから。あなたは仕事もなければ飲み会もないんだからいつでもチャンスはあるでしょ」
「ああ、一言余計だけど、その通りだな」
「ただいま」ドアのチャイムとともに声が聞こえる。
「はいはい、いま開けますから」女がこう言うのと同時に男はベッドに入る。
「ああ、ありがと。今日は疲れたよ。晩ご飯は何だい?」
「ハンバーグよ」
「おお、そりゃあいい」男はそう言いながら上着をハンガーに掛け荷物を置いて風呂に入った。
「なんだよ、今日はハンバーグかよ。俺も食いたかったな」
「明日はあの人、飲み会らしいから。だから、何でもつくるから」
「そうかい。じゃあ心待ちにしておくよ」
水の音が止む。
「じゃあ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
「じゃあ、そろそろ晩ご飯の買い出しに行ってこようかしら」
「ああ。今日はあいつ帰り何時だって?」
「二次会も断れないだろうから日はまたぐと思うって連絡が来たの」
「じゃあ食べたあともゆっくりできるな」
「ええ。何がいいとかある?作れるものなら何でも言って」
「じゃあ、サバの塩焼きがいいな。やっぱり俺も食べたいや」
その後、帰って来た女と一緒に男は夕飯の準備をした。二人は仲良くサバの塩焼きを食べる。男がふと気づいて言う。
「そういえば、俺はいいがお前は一昨日も食べたのに今日もサバでいいのか?」
「それはあなたもでしょ」
「え」
「だから、あなたも一昨日食べたのに今日もサバを食べてるでしょ」
「私は分かっているの。あなたたち双子がどちらが愛されているかを確かめるために二股の関係をお互いに演じていることに」
「おい、何を言っているんだ」
「だって、二人、一卵性だから顔は似ているけど仕草には違いが出てるのよ」
「つまりきみは何を言っているんだ」男は何とか返事をする。
「だから、あなたたちが無職で私の部屋にこっそり匿ってもらっている弟と、私の彼氏でサラリーマンの兄を毎日、日替わりで演じてるってのを知ってるの。だから、サバの塩焼きを一昨日食べたのに、俺も食べたいって言って久しぶりに食べたようなフリをしているあなたにお互いさまでしょって言ってるの」
「なんだ、そこまでバレてるのか」
「ええ。それで私が好きなのは、ここでこうやって素直になっちゃうお兄さんのあなたよ。結婚しましょ」
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