いい夢を見た
中条史彰は先週、繁忙期が終わった。だから有休をとって金土日の三連休を実現させていた。いまは連休一日目の朝の11時過ぎ。気兼ねなく朝寝坊できる時間を堪能しているということだ。
中条は夢を見ていた。普段は夢を見ていても目覚ましに叩き起こされるのがオチだが、今日は例外である。夢には西原綾が出ていた。西原は中条の前妻である。二人は半年前に離婚した。別に何か大きな事件があったわけではない。ただ、中条の仕事が忙しくなり子どもが小2に入ろうかという時期に中条は転勤になった。それも昇進つきだったから辞退はできない。西原は子どもに引っ越しは酷だし、自分も慣れ親しんだ地での子育ての方がやりやすい、と言った。中条の単身赴任の案もあったが、それはそれで辛いだろうと二人の意見は一致した。
結局、西原の実家はこちらにあるから経済的にも余裕はあるし、子どもを預けたりもできるということになり、二人は穏便に離婚の手続きを済ませた。
夢の中で中条と西原は少し気まずそうにはするものの普通に話をしていた。ただ、それは子どものいないところでだったが。もう一つ異なる点と言えば西原がすでに恋人をつくっていたことだろうか。夢の舞台は西原の実家でそこに西原とその両親、中条、西原の恋人が揃っていた。もちろん中条と西原の子どもも。
二人が離婚した理由はある意味単純だった。中条、西原、子どもの三者を考えたときに全員にとって最良の選択が離婚だったというだけだ。そうは言っても離婚した直後はバタバタでそのまま中条は赴任先へと越していった。そのまま二人の連絡は途絶えていたが、半年たった今なぜか中条は西原の実家に居るのである。これは夢の中の出来事であるが。
このおかしさには眠っている中条も気付いていた。ああ、おそらくこれは夢なのだろう。それでも、半年ですっかり大きくなった娘の姿や、母親に教わった料理を振る舞っている綾なんかは本当に現実のようだった。それこそ、このまま夢の世界に居続けたいと思うほどであった。
しかし、そうもいかず中条は南中した太陽を恨んだ。しかし次の瞬間、彼は多幸感に包まれた。そしてその理由に数秒後思い当たった。自分は随分と幸せな夢を見ていたんだ。でも、なんで何度も綾とやり直したいと後悔した自分が、新たな恋人と談笑している綾の出てくる夢を見て幸せを感じているのだろうか。
そんなことを思いながらベッドから出て立ち上がった中条はあることに気づいた。
そうだ、夢の中で綾は幸せそうに見えたんだ、いや、幸せに違いない。自分が昔、目にしたあの笑顔。自分が好きになったあの笑顔。見て見てと自分の作った料理を誇らしげにフライパンごと食卓に持ってくる姿。この単純な幸せの仕組みに思い当たった中条の頬には一すじの涙が流れていた。
今日はいい日だ。
彼は心の底からそう思った。
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