魂の素

「これって僕は何やってるんすか」

「なんだ、お前がそんないじけた口調なのはめずらしいな。何か現状に不満でもあるのか」

「いや、不満ってか僕がいまやってる仕事っつーか作業っつーかは何なんだろーなって思ったんすよ」

「それを連れてくればいいと前、教えたじゃないか。それに現にお前はこの仕事をこなせてるぞ。それもかなり優秀に」

「まあそうかもしんないすけど、そう言ってもらえるのはありがたいんすけど、この作業の意味が分かんないんすよ。このよく分からないふわふわした白い奴を先輩の前まで持ってくる作業の意味が」

「ああ、そういうことか、意味、言ってなかったっけ」

「はい、言われてないと思います」

「ああ、じゃあ教えるとするか。お前が連れてきてるのはざっくり言えば魂だ。魂。分かるだろ?」

「えっ、あ、魂ってなんか人の身体とかに宿ってる心みたいな奴ですか。死んだあとにさまようとか、成仏するみたいな」

「ああ、そうだ」

「魂って見えるんすね。なんとなく目には見えないかと思ってました」

「あー、うん、そうなるよな。お前が言ったことには2つ間違いがある」

「えっ、あ、はい」

「一つ目はこれは厳密に言えば魂ではない。まあ、さっきはざっくり言ったからな。それで二つ目として、これは魂じゃないから目に見えるだけで、魂になればお前の言う通り、目には見えなくなる」

「はあ、なるほど。じゃあこれは結局何なんすか」

「そうだね、それを言ってなかった。これは魂のもとなんだ。源という意味の素だな」

「なるほど。じゃあ、いつ素から魂そのものになるんすか」

「いい質問だ。そしてそれが俺の仕事なんだ。今日は特別に見せてやろう。こっちに来なさい」

「あっ、はい。今日は見せてくれるんすね。今まで頑なに入ってくるなって言ってたのに」

「悪いな頑固者で。まあ入れ。あと、お前が連れてきた素を一つ持ってこい」

「はい、じゃあ、これを」

「よろしい。じゃ始めるぞ」


 そう言うと宙に浮かんでいる魂の素を手で風を起こして、ふわふわと操りだした。そしていろんな角度から綿あめのようなその姿を観察している。


「どうだ、お前はこれを見てどう思う」

「俺っすか。結構きれいな球体だな、と」

「おお、よく分かっているな。一年間、ひたすら素を導き続けただけはあるな」

「ありがとうございます」

「で、見てみろ。こいつはそう言われてくるくる回っておる。おそらくうれしいんだろうな」

「なるほど」

「ということで、こいつに人間は無理だな。すずめ行き。ほら、次、持ってこい」

「あ、はい。持っていきますけど、今のは一体、、、」

「ああ、今のはあの魂の素の行き先を決めたんだよ。あれはすずめの魂となって次に生まれてくるすずめの身体に入るんだよ」

「なるほど、そのタイミングで魂に変わるんすね。でも、なんで人間じゃなかったんすか」

「そりゃあ、決まってるだろ。あんなにきれいで純粋じゃ、到底、人間なんて務まりゃしない」

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