判を押しているわけではないけど
今日も一日が終わった。今日もまた判を押したような一日だった。と思ったが昨日と今日で全部が一緒なわけはない。例えば、今日は昨日より起きるのが12分遅かったし、トーストははいちごジャムじゃなくてブルーベリージャムにした。もちろん授業も違った。今日は数Ⅱ古典化学体育英語現文だったけど昨日は体育がなくて地理があった。他にも違った点はあったと思う。昨日の部活には先輩たちが勢ぞろいしたけれど、今日は副部長が休みだった。
と、こんな風に挙げていけばキリがない。そりゃそうだ。完璧に同じ日なんてないのだから。じゃあ僕はどうして判を押したようななんて思ったのだろうか。こんなことを母がつくってくれた晩ご飯を口に運びながら考える。無論、昨晩とメニューは違う。昨日は筑前煮だったが今日はレバニラ炒めだ。ぼんやりとしていると、母が話しかけてきた。
「隼人、どうしたのぼーっとして。熱でもあるの?」
「いや大丈夫だよ。ちょっと考え事」
「あれだろ、なんか面白いこと起きないかなって思ってたんだろ」
父がうれしそうに僕の方を向いて言う。僕は一人っ子だから二人は僕をかわいがってくれる。
「まあ、そんなところかな」
そうとぼけた返事をしながら、あながち父のその予想は間違いではないのかもしれないと感じていた。面白いこととまではいかなくても多分、僕の心は変化を求めているのだろう。晩ご飯のメニューが日ごとに変わるみたいな決まりきったものではなくて意外性のあるような変化を。
意外性。寝支度をしているときも、僕の頭の中ではこの単語が頭をもたげていた。だって意外とは意の外と書くわけで、つまり意外性を求めるというのは予想もつかないことが起きてほしいと思っているということになる。僕が予想しないようなこと。例えば、、、。急にクラスのみんなが、うーん何だろう。父が母が何だろう。何がどうなれば意外なのだろう。そりゃ、こんなに仲睦まじい両親が離婚するなんて言い出したら僕は予想外だ、なんて思うだろうけど、僕は別にそんな大きなことが起きてほしいわけではない。
何だろう。小さいけれども意外なこと。そんなことを考えている内に少年は夢の世界に入っていった。
キャンプで使うような簡易的で丈夫なイスに座っている監督らしき人物。声を拾うためのマイクを持っている音声さん。大きなカメラを操るカメラマン。いろんな人が周りにいる。もちろんリビングのセットの中には父と母の姿もある。横ではスタッフが忙しそうにお皿を持って出入りしている。おいしそうな筑前煮をディレクターが目で追っかけていると、監督にどやされている。
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