競馬場のパーカーコンビ
「今日はどうするよ」
「あー誰がいいかな」
「あのおっちゃんとかどうよ」
「いいんじゃない。じゃ、聞いてくる」
「おう」
「すみません、何番が来そうとか分かりますかねぇ」男子大学生らしき人が長袖Tシャツに半ズボンの小太りの男性のそばに行っている。
「そんなん分かったら俺はこんなとこに通い続けねぇよ」半ばキレ気味に新聞から顔を上げる男性。
「あっ、はい。いや、なんか予想みたいなのが聞ければいいなって思って――」
「うーん、ヤマノブロンズだろ。で二着がシャローエフェクト、その次がアキヨナガだな」
「なるほど、じゃあ2-5-8ですね。ありがとうございます」青年は礼儀正しくお辞儀をしてもう一人の方に戻った。
「だってよ。そっちはどうだ」
「ああ、あのいやーな感じの女は4-6-7だと思ってるらしい」
「じゃあ、ここは2-5-8にするか」
「うん、そうしよう。でも怪しまれないように最後に2が追い抜く感じにしよう」
「そうだな、それがいい」
「ちなみにお前は買ったのか」
「いや、買ってない。なんかズルしてる気分になるしな」
「そっか、まあその通りだけどな。今回のオッズは?」
「ヤマノブロンズが2番人気で2.6倍」
「じゃあ、1000円で単勝だけ買ってくる。それでステーキでも食いに行こうぜ」
「まあ、それくらいならバチも当たらないか」
「うん」
「じゃあよろしくな」
乾いた空にファンファーレが鳴り響く。
「出だし、好調なのはシャローエフェクト、それに続くのがアキヨナガ。1番人気のマッチャンホワイトと2番人気のヤマノブロンズは後方からのスタートとなっています」
「おっと、マッチャンホワイトが駆け出していく。そこについていくヤマノブロンズ。しかし、先頭集団はまだ遠い」
「ここでマッチャンホワイト少しばて気味か。一方ヤマノブロンズはまだまだ追い上げていく。いったいどこにこんな力を隠し持っていたんだっー!」
「なんとなんとなんと、ヤマノブロンズがこの勢いのままシャローエフェクトを抜き去ってゴールインだぁー!」
レースを見ていたおじさんが小躍りしている。どうやら結構な額をかけていたようで青年の姿を見つけては、
「どうだったよ、俺の言う通りになっただろ。すごいだろ。君はどうしたんだ」と興奮しながら言っている。
「あー、僕手持ちがそんななかったんで、ヤマノブロンズの単勝だけ買いました」
「でも、当たったもんな」
「ええ、予想を聞いておいてよかったです」
「だよなぁ。よかったよかった」
彼らはジーンズに黄色のパーカー、もう片方はジーンズにピンクのパーカーという格好で、競馬場にふらっと現れる。その服装はいつも同じだから知る人ぞ知る二人組なのだ。しかし、面白いことに彼らを絶賛する人たちとこき下ろす人たちに分かれる。
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