次のホワイトクリスマスが待ち遠しい二人

 やっと会えたわ、レン。私が初めてレンに会ったのは幼稚園の頃だったかしら。

 それで合ってるよ、エリ。あのとき僕は子どもながらに驚いたよ。多分、息を吞むという言葉を知っていたなら真っ先にそう思ったと思うよ。

 あら、それはなんで。私、何かしたかしら。

 とぼけないでくれよ。あのとき君は初対面の僕の手を引っ張ってこう言ったんだ。ねえ、わたしは空が飛びたいの。おねがい、手伝ってくれる?ってね。

 そうだったかしら。でもなんでレンだったのかしらね。

 それは僕が聞きたいぐらいだよ。だから、当時の僕は君に訊ねたんだ。なんで僕なのって。そしたら、なんて言ったと思う?だって君が一番空を飛べそうなんだものって言ったんだよ。

 それ本当?笑っちゃうわね。

 笑わないでくれよ。だって、あのときなんだから。僕が君のことを好きになったのは。もちろん、好きなんて感情をあのときの僕は知らなかったさ。ただ、一緒にいたいなってそう思うだけだった。

 そうだとは知らなかったわ。だって告白してくれたのは中学のときだったんだから。

 ああ、そうだね。あのときの僕は怖かったんだ。君との関係が壊れるのが。それに、君の方は僕のことを幼馴染としか思っていなかったみたいだし。

 そういうことだったの。私の方が自覚するのが遅かったってことね。それでも、クリスマスに花束と一緒に告白してくれたときは飛び上がるくらいうれしかったわ。

 はは、実際、君は飛び上がって喜んでくれたからね。僕も覚えているよ。雪の上で君がはしゃいで雪まみれになっていたのを。

 そうね、あの年は珍しくホワイトクリスマスだったのよ。本当に懐かしいわね。

 たしかにホワイトクリスマスはめったに無かったね。おそらく君と迎えた2回目のホワイトクリスマスは30歳のときじゃなかったっけ。

 ああ、そうね。それでその後、レンとホワイトクリスマスを迎えることはなかった。今年が楽しみね。あの年はお互いに仕事が立て込んでいて、せわしなかったし。

 まあ、僕は国内を飛び回っていただけだったけど。

 私は世界をちょこまかしてたって言いたいのね。

 ちょこまかとは言ってないよ。世界を股にかけた大活躍だと言っているんだ。

 あら、お世辞でもうれしいわ。褒めても何も出ないけどね。

 それでも構わないよ。僕はこうやって君に話しかけられるだけで、返事がもらえるだけで心の底からうれしいんだから。

 それはどうも。でも、ちょっと素直に喜べないわね。だってそうなってしまったのは私のせいなんでしょ。ホワイトクリスマスの雪が血に染まったあの日。

 やめてくれ、もう今は僕たちの周りは平和なんだから。それにあれも僕が君のために進んでやったことなんだから。

 本当にあのときはありがとう。おかげで天寿を全うできた気がするわ。

 どういたしまして。そしてこっちの世界でも僕のもとに来てくれてありがとう、エリ。

 レン、それはこっちのセリフよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る