展望室の上で
ねぇ、僕たちってどうなるの、、、
不安げな目が僕を見上げてくる。分からない。どうなるかなんて分からない。僕にも分からない。そう言ってしまいたいけど、それは残酷な気がするし、事実を伝えたところでどうにもならない。でも、やっぱり僕にも何も分からない。ただ一つ言えるのはここが日本一高いタワーの展望室の天井の上ということだ。つまり、吹きさらし。なんとか僕はタワーの外壁のくぼみにつかまっているし、弟は僕の足にしがみついている。まだ今は昼過ぎだからそこまで寒くはない。でも冬に差し掛かろうとしているこの時期、夕方になったら、しかもこんな高い所で、絶対に寒いに違いない。力なんて入らなくて落下まっしぐらだろう。
もう弟は気を失ってしまったみたいで、しゃべらない。それでも僕の膝には体温を感じるからまだ生きてはいると思う。顔を覗き込んで確認することすらできないのが悔しいが。だけど、僕には見えていた。少し遠くであたりを飛んでいるヘリコプターが。でも、それは報道用っぽかった。こちらに来て助けてくれる気配はない。それでも助けを呼ぶのが筋だし、呼んでいるに違いない。
おかしい。
おかしい。あのヘリコプターが現れてから一時間は経ったはずだ。それなのに助けが来ない。あり得ない。なんで僕たちがこんな目に。なんで。
僕は心の中で悲劇のヒロインの気持ちになっていたけれど、そんな自分を遠巻きに見ている自分がいることにも気づいていた。
分かっているんだろう。なんでこんなところに居るのか。なんでこんなところで立ち尽くす羽目になったのか。
見えているんだろう。あのヘリコプターのロゴが。
【利道グループ】
ああ、ついに僕はこの文字を認識してしまった。利の道と書いて「としみち」。一般人が見れば創業者の下の名前でも取ったのかと思うだろう。でも、これは違う。利益の道だ。利益、金利、利ザヤ。まあその辺はどうでもいい。つまり、これは金融業者。分かりやすく言ってしまえば、闇金だ。
どうせ、僕たちが狼狽えている姿をどこかに生中継でもしているんだろう。それでチップかなんかを賭けているに違いない。生活費を使い込み、両親の金、義父母の金を使い込み、物を売り、家を売り、腎臓を売り、最後は僕たちってわけだ。
僕が認めたくない現実を認識してしまったところでちょうど弟が起きた。
お兄ちゃん、どうしたの?
あのヘリコプターは助けに来てくれたの?
いや、あれはね。そう言おうとしたとき、ヘリコプターに乗った人のものであろう声が聞こえた。
「弟か自分かどっちかが落ちろ。落ちなかった方は今から助けに行く。なあに大丈夫だ。下にはトランポリンを用意したスタッフが居るから」
それを聞いて今すぐにでも落ちてやろうかと思ったけど、僕が落ちたら弟がつかまる部分がなくなる。まだ背も低いから壁の高い所にあるくぼみには手が届かない。
そんなことを逡巡している内に弟が飛んだ。
ヘリコプターは僕の方へ来た。生中継ではなく双方向でつないでいるようだった。
「くっそー負けた。度胸のある弟だなあ。これは負け越しましたわい」
「いやあ、有り金全部賭けてよかったよかった」
「おれも賭けときゃよかったなあ」
「もっとお兄ちゃんにはしっかりしてもらいたかったなあ。ははは」
「じゃあ僕の総取りですな」
弟の行方を僕は知らない。
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