きのこ採集
きのこ。それは胞子を出して子孫を残すための器官だ。本体は菌糸。食べれるものも毒を持つものもある。大半はそのどちらなのかすら分かっていないのだけど。私の趣味はきのこ集め。会社員をやる傍ら休日は山や森に入ってはきのこの写真を撮ったり、きのこを収穫したりしている。もちろんルールの範囲内で。食べれるきのこがとれた時は台所に立って一品つくったりもする。ここ15年近くやっているから慣れてきて今では妻もおいしく食べてくれる。
そして今日は県境をまたいで
そんなことを考えていると足下にくすんだ緑色のきのこが生えていた。あまり見ない色だと思ってポケット事典を取り出す。このかさの形、柄の長さ、管口の走り方、そして何よりこの色。これは確か。あった「クズシダケ」だ。古い時代から薬として重宝されてきたが、あまりの効き目に少しでも服用量を間違えると、かえって体調を崩すことから名前がつけられたという説があったはずだ。
まあ名前の由来なんて置いておいても、このきのこが今の時代も価値が高いことに変わりはない。目利きに持っていけば高い値段で買い取ってもらえるはずだ。それに、この山は採集が禁止されていない。他の登山客も近くにいないことだし周りを気にせず採集に集中できる。
まず、きのこが生えている周りの土を丁寧に指で掘っていく。ここでスコップみたいな道具を使ってしまうと、きのこの軸の部分を傷付けてしまう。クズシダケの場合、最も価値のある部分は軸だったはずだ。そしてある程度、土が取り除けたら軸の部分からやさしく引っ張る。上から鷲摑みにしてかさの部分だけちぎれたりしようものなら大変だ。
慎重に、慎重に。よし、そろそろだろう、そう思って横から様子を見ながら引っ張るとまだ抜けない。どうやら根のようなものがもう少し張っているようだ。もちろん、きのこは地上に出てきている部分であって、本体は地面の中の木の根っこなどに入り込んでいるのだから無理もない。
よいしょっと、きのこが無事抜けるようにさらに範囲を広げて土を掘っていく。こっち側だ、こっち側。
おや、まだみたいだ。さすが天下のクズシダケ。そう一筋縄ではいかないみたいだ。それでこそ燃えるってものよ。
もうちょっとこっち側も。爪の間に入る土なんかを気にしている場合ではない。よしよし、だいぶ良い感じか。軸の部分を手で持って引っ張っていく。
ぽろぽろっ
ぽろっ
ツァー サー サー
あっという間に男がかがんでいた地面が崩れて行った。
男の手にはしっかりと「クズシダケ」が握られていた。
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