折り紙に文字

『なんで そんなに 美しいの 醜いくらい 美しいの』


 僕は高校でも部活に入らなかったから、授業が終わると基本的にすぐ家に帰る。南門から出て徒歩10分くらいの駅まで向かう。雨が上がって石畳が妖艶に輝いている。その上に真っ赤な折り紙が一枚落ちていた。それをめくると裏の白い方に文字が書いてあった。拾ったあと、もとに戻そうかと思ったけれど下校途中の生徒が周りにいるから、自分が捨てたみたいに思われても嫌だし、と思って結局四つ折りにしてハンカチと一緒に入れておくことにした。


『ねえ 教えて いま どこに いるの 私は ここに いるよ』


 階段が終わって右側には交差点というところで、また落ちている。今度は水色。のべっとした灰色のコンクリートとコントラストを成している。どうせ裏に書いてあるんだろうと思ったらこれ。少しメリーさんっぽい怖さがあるけど、それが魅力を生んでいる気がする。なんだか自分が語りかけられた気がするけど、違うだろう。人に見てもらうためにわざと落としているのかもしれないし、誰にも見せる気はなかったのに落としてしまったのかもしれない。


『だから 何度も 言ってるじゃない あなたさえ いれば それで いいの』


 横断歩道を渡りきると点字ブロックの上に黄色の折り紙が落ちていた。ちょうど色が似ていたから見落とすところだった。って僕は何を楽しそうに収集しているのだろうか。ちなみにこの交差点から駅までは直線ですぐだ。駅前のたこ焼き屋さんに並んでいる人を避けていたらあっという間に改札が見えてきた。いつも通り定期をかざしてホームの先頭側に向かう。ここが下りた後に階段に近いから。今日は折り紙を拾ったりしてたからか、いつもより待ち時間が短かった気がする。僕のお気に入りは入ってすぐの右端の席。


『やっぱり ごめん 欲張りだった ごめんなさい』


 さすがにこれが座席に置いてあるときはびっくりした。濃い緑色の折り紙。これもまた、見た目はシートに埋もれているかのようだったから気づかないところだった。さっきより字も自信なさげで少し線が揺れている。それにしても、これは落ちているというよりは置いたという感じだ。もしかして僕がいつもここに座っているというのを知っている誰かが仕掛けているというのだろうか。わざわざ折り紙を落として読ませるなんてことを。よく分からない。だって、もし僕に何かを伝えたいけど直接言うことはできないとかだったら、それこそ最後の一枚だけでよかったはずだ。うーん、何だろう。


 英単帳を開くことも忘れてこんな釈然としない気持ちでいるともう駅に着いた。ホームに降り立って階段を降りようと思うと、ふと視界の端に気になるものが映った気がした。それはゴミ箱に突っ込まれた、ほぼ新品の折り紙のパッケージだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る