ネットの人と通話
最近、ネットで知り合った人たち同士が通話をするということが多いみたいだ。通話アプリみたいなのがたくさんあるからそれを使うらしい。通話しながらゲームをしたり、つなぎながら勉強したりする人が多いみたいで、ついに、私の周りにもその文化が伝播してきた。私は用心してSNSなんかをやる方だから、通話をして名前も知らないような相手に声を聞かれるのは、正直いやだった。それでも、相手の声を聞いてみたいという思いがあるのも事実だったから、通話に参加することにした。昨今、素人でも簡単に扱えるボイスチェンジャーもあるからそれを使ってもよかったけど、なんとなく憚られた。それに面倒くさそうだし。
こんな感じで、いざ通話の約束をしている日になった。別にいつもとやることは変わらないのだけど、やっぱり緊張する。
「こんばんは」こう言うと、みなの反応は意外なものだった。声が低いと言われたのだ。まあ、たしかに女子の中では声が低い方かもしれない。周りでも私より声が低い友達はみたことがない。それにしても、ちょっとコンプレックスなのになあ、単刀直入に言ってくれるなあ、と思っていると違った。意外な反応というのはこんなものではなかった。
「男の方だったんですね」
「ねぇ、すっかりだまされちゃった」
「だよね、でも新鮮~」
え。私は女子だが。そう思って言葉に詰まっていると、
「あ、いや別にいいですよ、女子ってことで」
「うん、私たちも勘違いしてたんだし」
「ねぇ、めっちゃ投稿女の子っぽかったもん」
いや、だから。私は女子ですと言おうとしたが思いとどまった。ここで否定しても、もはやネカマの見苦しい言い訳にしか聞こえないのではないか。それに女子を男子と勘違いしてしまった、失礼なことをした、と彼女たちを罪悪感を抱かせてしまうのではないか。気まずい雰囲気にしてしまうのではないか。せっかく通話するまでの仲になれたのに、それはいやだ。
「じゃあ、やろうよ」結局、無難に話題を変えることにした。3人もネカマの必死の悪あがきと思ったみたいでそれ以上深追いはしてこなかった。
このままいつも通り一時間程度ゲームをして解散になった。元からゲームはほぼ毎日していたので、通話もまたいつかしようということになった。でも、これは社交辞令だろう。多分、今頃もう一度、彼女たちだけで通話をして色々話をしているに違いない。生憎というのか、幸運にもというのか、このアプリはオンライン状態かどうかが見えない。
彼女の予想は当たっていた。三人は通話をしていた。
「なあ、まさかあいつもネカマだったとはな」
「ああ、がっかりだよ」
「せっかくここまで親しくなって、通話まで漕ぎつけたのに」
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