重力動災害

【重力動速報 度数4 日本海沿岸 21:08】なお津波は確認されていない


 テレビには速報が出てネットニュースでもたちまち記事が出る。重力動。この現象が観測されてから災害となるまでの期間は短かった。ここ一世紀のうちに観測、災害が立て続けに起こった。初めは北欧の方での微小なものだった。それが最近、南下してきてアジアなどでも起こるようになった。どうやら太陽との引力の乱れが原因らしい。現在、使われている指標は動数というもので動数1から6までの6段階がある。未だ世界で動数6は確認されていないが、去年の南極付近重力動が動数6にかなり近かった5だったと言われている。

 この現象、太陽が原因だというのは分かっているのだが細かなメカニズムがまだ解明されていない。やはり太陽についての詳細な情報が足りていないことに起因するのだろう。加えて地球の公転と自転を考慮しなければならず、どこでいつ起きるのかを予測することは現在の技術では困難である。ただ、うっすらと周期は分かってきているらしい。まあ、それも一年に一度は起きるという本当にざっくりしたものだが。

 この現象が観測されたときから、災害に発展するかもしれないと考えていた識者と懇意にしていた関係者が政府内に居たらしく、海外で災害に発展した例が起きたあと、すぐさま気象庁には重力動部が立ち上がった。メンバーも研究者を招き入れたものになっていてかなり本格的だった。いまでは世界をリードしている。流石は地震国と言ったところだろうか、経験が生かされているとの見方もある。

 さて、実際にどのような現象かというと、簡単に言えば特定の地域だけ重力が乱れる現象である。多くの場合重力が弱まることが多い。(一件だけ重力が増大した事例が報告されている)そのため、軽いものが浮き上がる。これだけだと、まるで宇宙船の中のようで楽しいちょっとしたイベントなのだが、実際はもう少し深刻である。動数が3を超えたあたりから簡易的な建造物や車、電車、船などが浮遊し始める。

 とくに建造物に関しては注意が必要である。まだ重力動が災害を及ぼす大規模なものになりうると認識されていなかった頃に建てられたものは重力動対策が取られていない。そのため、建物自体が重くてもまれに浮いてしまうことがある。構造的欠陥というものだ。耐震性以外にも耐浮揚性というのが昨今では求められてきている。

 そして何より現在危惧されている最大の危機が複合災害だ。重力動と地震、重力動と豪雨、重力動と洪水といったパターンは現時点では観測されておらずどのようになるかという予測が立っていない。重力動そのものの実例が少ないのも一因である。物理法則に基づいて計算でシュミレーションすることはできるものの、実地的なシュミレーションはまだ不可能である。重力をいじるということは人類にはまだ不可能なのである。

 こういった現状を神がお怒りになられた、と騒ぐ団体も出てきている。そういった声に耳を傾け、否定しない姿勢も大切だが、一方で、現実を直視することも求められている。

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