老いの明星
「おい、若いの、ここは俺が片付けるから、お前は先に行っとけ、いいな」
「あら、余所見とは随分と余裕ですね」
「おめえが手ぬるいことばっかしてくるからな」
「手加減という言葉を知らないのですか、あなたは。若い方に最後の言葉を伝える猶予を差し上げたのみですよ」
「うっせぇな。そんなこと気にするような奴じゃねえだろ、おめえは」
「あらあら、私のことを理解してくださってるんですか。光栄なことですね。感謝しますよ」
「さっきからペラペラと、その態度、昔から気に食わねぇんだよな」
「だって、やさしいんですもの、あなたが。ほらっ、こうやって目をつぶっても躱せるんですよ」
「なんだぁ、今の俺が本気だとでも思ってんのか。おめえ、目が濁ってきたな」
「本気だとは思ってませんけど、さっきから息が上がってますから」
「そういうおめえこそ、自慢の長髪が乱れまくってんじゃねえかよ」
「私の白髪を褒めてくださるの。ありがたい限りですね。あなたもその杖似合ってますよ。使いこなせてないようですけど」
「まあ、この杖はお飾りだからな、かっこいいだろ。年相応の格好ってのが大事なんだよ。万年見た目の変わらねえお前に言っても意味ねえか」
「私は若いままでいますもの。それを目指してますから」
「ああ、そうかい。それなら、腕前も落とさないことだな。さっきからおめえの弟子かなんかが、ずっと心配そうにこっち見てんぞ」
「あら、まだ居たのあの子。まあ、私を心配してっていうよりは、重いあなたの亡骸を運ぶために控えてくれてるんでしょう。ねえ」
「おら、軽率に振り向くんじゃねえよ。この俺が相手してやってるってのにさ、なあ」
「さっき余所見してた人に言われたくないですね。けど紳士は過ぎたことには執着しませんから」
「おまえが紳士か、まあ俺よりは紳士らしい見た目かもしれねえな。でも、大事なのは中身だ、中身。おまえみたいな腹黒野郎には負けねえよ」
「失礼ね。そういえばさっき、ここは片付けるから先に行ってろ、みたいなこと言ってたみたいですけど、この先に何かあるのかしら」
「あるも何も、おめえの部下が暴れまくってるらしいぞ、知らねえのか」
「そんなこと指示してないですけどねぇ」
「あ、おめえ、部下の統率も取れねえのか、やっぱり落ちぶれたんじゃねえか」
「部下の統率はさっきの子に任してあるのよ、私のあとを継いでもらうために」
「そういやあの坊主、俺の若いのと同じ方向に行ったよな、死にてえのか、わざわざ巻き込まれに行って」
「そういう時は漁夫の利を狙うようにと教えてあるから」
「じゃあ、なおのことおかしいじゃねえか。まだ決着がつきそうにないことは俺の言葉から分かったはずだろ」
「確かにそうね。少し様子見に行きますか」
「ああ」
ここまで手を止めなかった両者は一時休戦ということで、部下たちが向かった方へ向かった。善良なる市民には手を出さない、という信念で一致する二人が愛する無法者を一掃したのは言うまでもない。
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