後藤を待ちながら

今となっては、めずらしいタバコ屋の前で人を待つ男二人。


なあ、今日ほんとに後藤来るんだよな。

うん。だってそうやって言ってたし、そもそも今日観に行くのはあいつの好きなアクション映画だぞ。

まあ、確かにそうだな。俺たち二人だったらサスペンスになるもんな。大体。

だろ。だから俺、あんま覚えてないけど、多分今日集まろうって言い出したのも後藤のはずなんだよ。

まあ、そうなるな。

だから、来るはずだろ。

ちなみにチケットは取ったんだっけ。

いや、あいつが取るって言ってた気がする。

そっか、じゃあ尚のこと待つしかないな。

最悪、昼飯食って午後からでもいいだろ。

だな。


その前を犬を連れた老人が通りかかる。


かわいい、柴犬ですね。撫でてもいいですか。

ああ。

全然吠えないんですね。

ああ。そう躾けているから。

お手っ、あれ、お手っ。

ほら大吉、お手じゃよ。

おお、お手してくれた。すごーい。

お散歩ですか。

いや、いつもは散歩なのだがな、わしも年を食ったからな。もう世話ができん。だから譲ってくるんじゃよ。

なるほど。寂しくなりますね。

ああ、じゃあな。いくぞ大吉。


二人は犬と触れ合えて満足したが肝心の後藤は来ない。


なあ、もう帰るか。それとも二人でどっか行くか。

そうするか。

おい、あれ後藤の甥っ子さんじゃないか。

あの、木登りしてる子か。

うん、たしかそうだった気がする。


二人に気づいたのか少年が走ってくる。


後藤おじさんのお友達だよね。

うん、覚えてくれてるんだ、ありがとう。きみはたしか甥っ子だったかな。

そうだよ。おじさんたちこそ覚えてくれててありがとう。

ああ、どういたしまして。それでさ、後藤おじさんどこにいるか知らないかい。

えっとね、さっきまでおじさんの家で遊んでたんだけど、今日は一日帰らないみたいってお母さんが言ってた。

ああ、分かった。教えてくれてありがとう。

うん、じゃあね。




翌日。二人は同じ場所で待ち合わせている。


結局、後藤連絡つかなかったな。

でも、あの映画、今日が上映最後らしいから、あいつが来るなら今日しかないだろ。それに来なかったら今日こそ、俺ら二人で映画行こうぜ。サスペンス、チェックしといたし。

そうだな、名案だ。


二人が雑談に飽きてきたころ、また犬を連れた老人がやってきた。


おい、あれ昨日ここを通った、おじいさんじゃないか。

そう言われれば、そうだな。でもなんか違うような。

たしかに。あっ、おじいさんがサングラスしてるんだよ。それに歩き方もフラフラしてる。

もう、犬が主人を引っ張ってるって感じだな。

うん。さすがに犬にお手をさせる気にはなんねえな。

っていうか、犬は譲るって言ってなかったか。

たしかに、まあ、寂しくなったんじゃない。

まあ、あり得るか。知り合いに譲るとかだったら融通利くしな。

で、さあどうする。

どうするって。

もうちょっと待つかどうかってこと。

たしかに暇だし、映画館の方面まで歩くか。

なんであいつ来ないんだろうな。

うん、絶対来るはずなんだけどな。おっ、危な。

えっ、どうした。

なんかロープが落ちてた。

ああ、にしてもこんな樹の下にロープか。サスペンスの定番じゃないか。

首吊りってか。やってみるか。


二人の男は首を吊ったが、樹が耐えれるのはせいぜい木登り程度だったようで、うまく行かなかった。

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