世界線ルーレット

俺はルーレットを回す。


カラ。カッカッカッカッカッカッカッカッカ。


あなたは


【部活の先輩】

【幼馴染】

【サークルの後輩】

【小学校の担任】

【中学のクラスメイト】

【双子の兄】

【カフェの常連】

 ・

 ・

 ・

【高校の後輩】に決定~!!





 放課後。僕は図書室で勉強していた。テニス部の並木さんが練習を終えるのを待っていたのだ。こっそりと。並木さんは僕の1コ上。だから今は夏の最後の大会に向けて練習が本格化している。だから僕は最近ずっと図書室で並木さんの帰りを待っている。


 ある日、僕がカウンターで受付をしていると並木さんが青い空の写真集を持ってきた。僕はバーコードを読み込んで手渡した。長い髪を静かに揺らしながら並木さんは両手で本を受け取ってくれた。あまりの美しさに僕は貸出カードの名前をこっそりもう一度確認して返却した。


 この時から僕は積極的に委員会の仕事に出るようになった。並木さん、本の借りる時と返す時以外は図書室に来ないのかと思っていたけど、そんなことはなかった。運動部だけど読書などにも興味があるみたいだ。本を整理するふりをしながら、何の本を読んでいるんだろう、と椅子に座っている並木さんを横から眺めたりした。綺麗な蝶の写真集や韓国人の詩集なんかをよく見ていた。


 僕がこんな感じだったからか、あちらも僕を覚えてくれたみたいで、僕が近くを通ると図書室じゃなくても、廊下とかでも会釈をしてくれた。僕はうれしかった。昼休みがまだ10分も残っているのに、並木さんが本を棚に早めに戻したとき僕は思い切って話しかけてみることにした。今までもしゃべったことはあったけど、それはどれも業務的なものでこうやって好きに話すことは無かったから僕は舞い上がってしまった。何も言葉が出てこなかった。


「いつもありがとうね。本の貸し出しとか」


でも並木さんの方から話しかけてくれた。


「えっ、あっ、はい。こちらこそ」


よく分かんないことを言ってしまったけど、並木さんは笑ってくれた。


「じゃあ、またね」


そう言って並木さんは颯爽と歩いて行った。やっぱり靡く髪がきれいだった。



この頃からだったろうか。僕が並木さんの帰りを待つようになったのは。並木さんは校門を出て僕に気づくと駅まで一緒に歩こうか、と言ってくれる。そのひとときが僕の一番の楽しみと言っても過言ではない。





 そっか。並木が俺の1コ上で高校が一緒だったらこんな感じだったのかもな。でもきれいな黒髪だけは変わらない。俺はそう思う。

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