考え事

 どこか冷たい空気が僕をぼうっと囲んでいる。寒くはない秋の夜中、僕は家の床に一人座っている。晩ご飯も食べ終わり、見ていたテレビ番組も終わった。壁にかかった時計を見ると、もう一時間も経っていた。僕は暗くなった画面をずっと見つめていたのだろうか。何をしていたのだろうか。何か考えていたのだろうか。よく分からないなりに何かを必死に考えていた気がする。


 人生、についてだっただろうか。人生は何もしなくても転がっていく。それがどんな方向に転がっていくのかは分からない。自分の望み通りに転がっていくとも限らない。でも、ただこうして、息を吸って吐くだけで自分の人生は転がっていき、終着点が定められていく。そんな気がする。時々、自分の人生なのに、それを遠くから俯瞰しているときが僕にはある。そういうときは決まって、あれ、こんなつもりじゃなかったのに、いつの間にこっちに逸れたんだろうなんて思う。

 自分、についてだっただろうか。自分を大切にしなさい。この言葉は色んな意味で使われる。自分の意見を大切に、自分の気持ちを大切に、自分の心を大切に、自分の体を大切に。どれも大切にすべきものだと思う。でも、自分を大切にすることは勇気の要ることだと思う。だって人のことを大切にするのは一般的なだけど、自分のことを大切にするのは自己中心的とも言える。それに自分を大切にしても、誰かから褒められるわけでもなければ、感謝されるわけでもない。だから僕は人を大切にするのは簡単だけど、自分を大切にするのは疲れる、なんて感じてしまうのかもしれない。

 そういえば、リスカは自分の体を大切にしていないということになるのだろう。でも心の痛みを忘れさせるために肉体的な痛みを生じさせていると考えれば、リスカは自分の心を大切にすることにつながるのではないだろうか。まあ、僕のことを大切に思ってくれている人のことを傷つけることにもなるのかもしれないけど。リスカは。

 はぁ疲れた。自分が思ってることを言語化するのって疲れる。でも同時に言語化することで、気分が楽になっている気もする。しかし、それは幻なのかもしれない。文字にするときに問題が矮小化されたり陳腐化したりしている気がする。画像を細かいマスに対応させるファックスの過程みたいな。だからこうやって文章にしている間にもマス目では拾いきれなかった微妙な部分が零れ落ちていってるのだろう。


 結局、何を考えていたかは思い出せない。思い出さなくていいのかもしれない。

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