高熱のときの夢
目の前が極彩色に光っている。鮮やかな赤がうねった帯をつくり、そこに青色がはじけとんでいる。後ろからは黄色い煙が立ち昇っていて、水しぶきが辺りを容赦なく濡らしている。紫色の渦は眼前を覆い、黒い何かが現れては消え視界を騒がしくしている。
そこにポツンと浮いているのはおそらく人の顔。もう少し正確に言えば人の顔だったもの。眼球は片方なくなっていてその空洞には影ができ、口は不自然に広がっている。首はまるで手で引きちぎったかのように不揃いになっている。流血はしておらず、その風化具合は何百年も前からそれがそこにあったことを主張するかのようである。
気温は低く、気を抜いたら凍ってしまいそうである。しかし湿度は高いようで肌はあまり乾いていない。ときおり体を風が撫でていくが、見回しても窓やドアのようなものは見つからず、風がどこから吹いてきているかは不明瞭である。匂いはというと、火薬が使われたあとのような匂いがする。他に大して匂いはしない。
ここはどこなのだろうか。窓やドアもない代わりに壁も無い。ただ、天井と床の感じから教室のように思える。しかし多くの場合、黒板があるであろう場所にはそれはなく、大きなガラスが嵌め込まれている。そこには醜い顔が映っている。これは誰の顔なのだろうか。もしかしたら自分の顔なのかもしれない。
ふと爪先に冷たさを感じた。黒色の水が流れているみたいだ。その水はどこかぬめっとしていて気持ち悪い。少し右に動こうと思って足を上げてみると、逆に引っ張られた気がする。まるで生き物みたいだ。でも、じっと見ていると、その黒いのは左奥にズレていっている。床に落ちていたワインボトルを寝かしてみると同じ方向に転がっていった。
もう一度、前を見てみるとそこには虹色の鳥が飛んでいる。はじめにあった煙や光は全部消えたみたいだ。その鳥が羽を数センチ動かすと竜巻が目の前に巻き起こった。その風圧を感じていると、いつの間にか体が宙に浮かんでいた。心地よい。だけど下側の景色はみるみるうちに小さくなっていく。おかしい。天井があったはずなのに。
そう思っていると上から魚が降って来た。どれもつやがあっておいしそう。魚からはカスタードクリームの匂いがする。その顔は歪み始め、鳥は塵になってガラスの破片の上に薄く層をつくっている。このガラスはさっきまで有った大きいやつだろうか。よく見ると映っていた自分の顔までバラバラになっている。
一番はじめに見た生首には黒い液体がまとわりついている。たしか片目が無くなっていたはずだが、そこには青い目が入っていてこちらをぎろりと睨みつけている。その青い目が上を見た瞬間、黒い液体はさっと飛び上がり一気に散っていった。それと同時に赤い帯と青色の粒、黄色い煙と紫の渦が巨大化した。
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