私にだけできること

 私は西園寺かなえ。アイドルグループ、マカロンロンリーのメンバーだ。私たちは4人組でいわゆる地下アイドル。私のイメージカラーは黄色。大月みそらは水色、龍ヶ崎さきは赤、清川れいなは緑色だ。メンバーの紹介でもすることにしよう。


 みそらは歌がピカいちに上手い。私なんかの数倍いや数百倍上手い。一年前に中退してしまったみたいだけど、音大に在籍していたほどの実力者なのだから当然かもしれない。今もその実力を遺憾なく発揮していて、歌の一番の聞かせどころはみそらが全部かっさらっていく。それでいてその歌唱力に甘んじることなく、練習で一番歌いこんでいるのだから流石としか言いようがない。


 さきはダンスが上手い。ほんとに文句なしに上手い。私がいくら練習しても、ああはなれないだろうと思うほどに上手い。以前さきにそう言ったことがある。そしたら、私も最初は全然できなかったんだけど、先輩に教わりながら夜までレッスン室で踊ってたら段々分かるようになって――と言われた。先輩というのは高校の時に通っていたというダンススクールでの話だろう。でも、あんなキレと美しさは私には手に入らないと思う。


 れいなはなんてったって、かわいい。さっきの二人と比べて、え、そんなこと?と思うかもしれないが、かわいいというのは大きな武器だ。かわいいと自分に自信が持てるから堂々としたパフォーマンスができるし、ファッションも含めて容姿で人目を引くことが容易になる。メイクが上手というのもあるのかもしれない。実際、れいなにメイクをしてもらったときの評判はよかった。


 じゃあ、私には何があるのか。わざわざ問いかけるまでもない。そう、何もない。すべて人並み。だから私はなんとか自分に価値を見出さないといけない。自分だけの価値。他の人とは違う価値。他のメンバーには無い価値。最近ずっとこのことを考えていた。ときに他のメンバーやマネージャーに心配されるほど考えていた。


 そしてある日、私は思いついた。私生活の切り売りをすればいい。私生活なら誰とも被らないし新たに作り上げる必要も無い。


 はじめはSNSで食事を上げたり、趣味について話したり、いま○○してる~みたいなことを投稿していた。


 それでは段々飽き足らず、声だけの配信を始めることにした。ついでに「おはよう」「おやすみ」みたいなボイスも録音してグッズとして販売することにした。


 そこからカメラ付きの生配信に移行するのには大して時間がかからなかった。


 生配信だけでは足りない、そう思った西園寺はおうちツアーを始めた。料金を払えば西園寺の自宅に行けるというものだった。そこで少しおしゃべりをしたりするのだ。


 その次は同居だった。西園寺の自宅で一緒に生活をするのだ。




 こうして西園寺は私生活を売っていった。


 ついに彼女には売るものがなくなった。


 しかし、彼女は、まだ、何かあるはずと模索していた。

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